
【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。
【第3場 (後半)】
猪又 「(大山に)で? 結局やめるのか」
大山 「……あきらめます」
大山、ため息をつく。
大山 「才能ないってわかったし。好きとできるは、違うと思いました」
猪又 「好きとできるは、違うよね」
猪又、大きくアクビをする。
猪又 「俺も同じ」
大山 「え……(猪又を見る)」
猪又 「尊敬する人の作品を見て初めて、自分もやろうって思ったとことかさ」
猪又、コリをほぐすように首をまわす。
猪又 「でもさあ、大変だったよ」
大山 「大変……ですか」
猪又 「うん。いろいろあったし」
大山 「いろいろ……ですか」
猪又 「そんときはね、谷が助けてくれた」
大山 「……谷さんが」
猪又 「うん、めっぽう頼りにしてた。
いつもあんな調子だけどな。けっこうすごいよ、洞察力とか」
大山 「ふうん」
猪又、アクビをする。
猪又 「映画ってさ」
大山 「はい」
猪又 「ひとりで作ってるわけじゃないじゃん」
大山 「……はい」
大山と猪又、しばらくそれぞれの思いにふける。猪又、アクビをする。
黒木、テーブルに置いた本を1冊手に取り、また置く。
猪又 「だからさ、要するにいま、ココロの中で、何がメジャーか、じゃないかな」
大山 「はい?」
猪又 「何がいちばん大きな位置を占めてるか」
大山 「……はい」
猪又 「それって、ごまかせないもんだろ」
大山 「はい」
猪又 「例えばさ、いまの俺、知ってるっけ」
大山 「……(ピンと来ない)」
猪又、軽くジェスチャーで。
猪又 「いま、これ(妻が妊娠中)で、これ(就職した)だろ?」
大山 「あっ」
猪又 「少なくとも、現在のいちばんは、映画じゃないなって感じだろ?」
大山 「……はい」
猪又 「でもさ、状況って変わるもんだし……」
黒木が、いきなり立ちあがる。
そして無言で、足早に下手へ去っていく。
それを呆然と見送る大山と猪又。しばらく言葉が出ない。
大山 「……本当は」
猪又 「……」
大山 「本当は、やりたい。……すごくやりたい」
猪又 「……」
大山 「すごく映画作りたい。映画作りたい。作りたい作りたい作りたい」
さめざめと泣く大山。
やがて、下手から黒木が戻ってくる。手にコーヒー缶を1個持っている。
テーブルの前まで来ると、缶をさりげなく猪又の前に置く。
猪又 「……サンキュ」
黒木が、ポケットから缶をもうひとつ取り出し、大山の前に置く。
大山、きょとんとして、コーヒー缶と黒木を交互に見る。
やがて、泣きっ面のままニヤリとする大山。
大山 「(缶を指さし)オブジェクト」
黒木、思わずクスリと笑う。
反対側のポケットから自分の分の缶を出し、上手の席に座る。
黒木の頭を、後ろからうれしそうにカバンでこづく猪又。
大山、缶を開け、ニコニコおいしそうに飲む。
猪又 「お前もだよ。鳴いたカラスがなんとかだよ(大山をバカバカとカバンでぶつ)」
大山 「あーこぼした。こぼしましたよ(笑う)」
下手より谷が登場。やたら後ろを気にしている。
谷 「なーにやってんだよ。早く来いよ。ほら」
谷、いったん下手に戻る。
谷に腕を引かれて、おでこに冷えピタを貼った水村が登場。
水村は、前にも増して憔悴しているようす。
大山 「よっちゃん」
谷 「そこの植え込みんとこで、泣き声がすんだよ。ひんひん、ひんひん。
真っ暗なのにいったい何がいるのかと思ったら、こいつだよ」
水村 「……大山くん」
水村、いきなり大山に向かって土下座。
水村 「ごめんなさい。お金……どうしても見つからない。
ごめんなさい。ごめんなさい。ぼく、働いて返すから。
一生かかっても働いて、返すから。本当に、ごめんなさい!」
大山 「……よっちゃん」
大山、水村の前に座る。
大山 「べつに、一生もかかんなくていいよ、10万円だもん。
……ていうか、もういいよ。いいよ。いいってばいいよ」
大山、水村を抱き起こす。
大山 「こっちこそ……ごめん」
水村 「……大山くん」
大山 「……よっちゃん」
水村 「大山くん!」
大山 「よっちゃん!」
互いにひしと抱きあい、おいおいと号泣する大山と水村。
言葉もなく、ただ見つめるしかない残りの3人。
しばらくして、猪又が谷に言葉をかける。
猪又 「……メール、サンキュ」
谷 「よかったじゃん」
大山と水村、ハムスターの埋葬先について、
ボソボソと相談をはじめているようす。「薬学部の畑に」とか言っている。
谷 「かわいい後輩たちのイザコザ、解決ついて」
猪又と谷を、さりげなくうかがう黒木。
猪又 「話さなきゃって思ってたんだけど」
谷 「話なんてないよ(帰ろうとする)」
大山 「(気付いて)谷さん!」
大山が、谷の前に立ちふさがる。
大山 「猪又さんと、きちんと話して下さい」
谷 「……」
大山 「猪又さん言いました。前にいろいろあったとき、谷さんが助けてくれたって。
猪又さん、谷さんをめっぽう頼りにしてたんですよ」
谷 「チケットの数、違うもんなあ」
大山 「……(息を飲む)」
谷 「(脇をすり抜けながら)わかってんだよ、そんだけだってね」
猪又 「(同時に)谷!」
大山 「(同時に)谷さん!」
猪又、立ちあがる。大山がふたたび谷の前に立ちふさがる。
大山 「そんだけのわけないですよ。だって……だって、
同じ目標持ってたわけじゃないすか。
映画作るって。だからずっと一緒にきたんでしょう?」
谷 「……(目をそらす)。
大山 「あ、ひょっとして、妹さんのことで」
谷 「(大山を見る)妹は関係ねえ!」
谷、苦しげに目をつぶる。
谷 「最初からだ」
大山 「最初……」
谷 「わかんないんだよ、目標なんて言われたって」
大山 「……」
谷 「わかってんだよ。いつでも俺は便利に使われてるだけだって。
けどそうでもしなくちゃ、何のために俺はいるのって……」
猪又 「谷!」
谷、猪又を見る。
猪又 「なんでそんなふうに考えんだ。
お前、俺にないものいっぱい持ってるじゃないか。
ずいぶんフォローしてくれてたじゃないか。
それでこっちはすごく助かってて……」
谷 「ほら」
口をはさみたいのにできない大山。
冷静な黒木。
水村はずっと固まった状態。
谷 「いつでも自分が中心にいて、まわりがみんな自分のためにあると思ってる」
猪又 「……」
谷 「いつでも自分が中心だと思ってる」
猪又 「……」
谷 「何でも思ったようになってる人間の、傲慢さだ」
猪又、ついと前に出る。
猪又 「思ったように、なってるだって?」
猪又、谷とにらみあう。
猪又 「お前、そんな風に見えるのか。あ? いまの俺がそんな風に見えるのか。
ああ、たいした眼力だよ。俺が傲慢だって?
そういうお前は何なんだよ(谷の襟首をつかむ)何なんだよ。
えらそうに言うなよ。何も作ることできないくせして!」
次の瞬間、2人のあいだで激しい取っ組みあいがはじまる。
猪又 「……作りたいんだよ。畜生ッ!」
おろおろする大山。
冷静な黒木。
水村はめそめそ泣き始める。
大山 「やめてっ、ふたりともやめてっ」
黒木 「(大山に)大山よせ」
なおかつ仲裁に入ろうとする大山、とばっちりのパンチを豪快にくらう。
気を失い、大の字になって倒れる。
水村 「大山くん!(駆けよる)大山くん大山くん!」
猪又と谷、荒い息をしながら、毒気を抜かれたように、その場に座りこむ。
大山、意識を取りもどす。
水村 「大山くん」
大山 「あ、よっちゃん」
大山、起きあがろうとするが起きあがれない。
黒木 「だからよせって言ったんだ。
ケンカの仲裁ほど、リスクの大きいものはないんだぞ」
谷 「……黒木さあ」
黒木、谷を見る。
谷 「お前も、もっと身体使えよ」
憮然とする黒木。
思わず吹き出す大山。
つられて水村が笑う。猪又も笑う。
猪又 「じつは俺、さっきからすっげえ眠いんだってば」
谷と黒木が笑いだす。
しばらく、みんなでひいひい笑いつづける。
暗転。
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