新しいぼくらの名前 1
「新しいぼくらの名前」は
映画「L change the WorLd」をベースに創作した
二次創作(スピンアウト)小説「L spin out the life」の、ふたつめの番外編です。
若干、設定の変更もありますが
LcWの二次創作として、そのまま読むこともでき……できるかも(笑)。
ニアとLの物語です。
ただしニアは、福田響志くんが演じた映画版<BOY>のほう。
響志くん。今回、台詞チョー多いけど(笑)がんばれ。
新しいぼくらの名前 《 1 》
おひさしぶり。元気だった?
背が伸びた? 当然だよね、あれから二年も経ったんだもの。スルガさんはちょっと老けたんじゃない?
あはは、うそだよ安心して。まだあのお仕事を続けてるんでしょ。
日本語も上手くなった? だからまるまる二年も経ってるんだもの。これくらい当然だよ。そうだねいまなら「環境対策におけるバイオレメディエーションの可能性と現時点での問題点」についても、あなたと小一時間ぐらいはディスカッションできるけど。
……あ、やめとく。そうだよね、そういう話をしに、このワイミーズハウスまでわざわざ来たわけじゃないもんね。
ねえせっかくだからスルガさん、ラウンジじゃなくて、東の棟にあるぼくの部屋で話をしようよ。あなたに見せたいものもあるしさ。
こっちこっち、ここの三階。あ、階段、古いから気をつけてね。
ぼく? いま? 生命科学に興味を持ってるんだ。集団遺伝学をやろうと思ってる。
えーとね、すごく簡単にいうとね、生物集団内における遺伝子の構成・頻度の変化に関する遺伝学の分野のひとつ。ダーウィンの進化論とメンデルの遺伝法則が合わさったようなものだよ。交配実験が不可能なヒト集団の遺伝学的組成に関する研究にも役立ってるんだ。犯罪傾向の大きい気質というものが存在して、それが遺伝とも関わりがあるなら、その仕組みを解明することにより、ある程度の犯罪抑止力はあるかもしれない。
うん。たぶん二年前の、あの事件がきっかけだね。やっぱり自分がなぜこういう他人と違う体質で生まれたのかも、ちゃんと知ってみたいってこともある。
ところで、真希お姉さんとも会ったの? このあと行くの? ……ふうん、行かないの。
うん、連絡はとってるよ。彼女いま松戸博士のとこにいるんだってね、よかったよね。博士は少しおっちょこちょいだけど、いい人だからね。いまウイルスとヒトの共存を考えた野菜作りを目指してるらしい。他にもいろんな微生物の力を借りて抵抗力の強い野菜を作ることが、博士の目下の楽しみなんだって。いまはもう毎日、麦わら帽子姿で畑に出ているそうだよ。これは真希お姉さんからの情報。
お姉さんは、去年のクリスマスに手編みのすごく長いマフラーを贈ってきた。彼女いったいぼくの身長をどれくらいだと思ってるんだろう。まじ背丈より長かったんだよそのマフラー。ああ見えて結構おっちょこちょいなんだよね。……スルガさん、そこまで笑うと真希お姉さんがかわいそうだよ。
でもここだけの話さ。博士と彼女、おっちょこちょい同士で気が合ってるのかもね。
さあ着いた。
眺めがいいでしょこの部屋。日当たりも、風通しもいいんだ。高原だから夏はとっても涼しいし。あ、そこのベッドに腰かけてくつろいでいいよ、スルガさん。
ここが、いまぼくが暮らしてる部屋。
そして二年前、Lが二十二日目の……そう、生きて最後の夜を過ごした部屋だよ。
* * *
いきさつは聞いてる。
死神から提示されたルールにより、彼が自分の名前をノートに書いた日から数えて、残り寿命が二十三日となってしまってたことだね。
ぼくがここに慣れて落ち着いた時期になったら真実を伝えるようにって、あの人がロジャーさんに頼んでいたらしい。ロジャーさんていうのは、あなたを下で出迎えてくれたあの年配の人のこと。ワイミーズハウスの院長。いまとてもお世話になってるんだ。
ぼくがそれを聞いたのは、Lがいなくなってから三ヶ月後さ。
……ね、スルガさん、いいもの見せたげよっか。
ライティングデスクを動かして、壁から離してくれるかな。うんそこ。柱の下のほうが見える? よく見てよ。
言っとくけど、カタカナの「レ」じゃないよ。
L。L Lawliet。
あの人の名前。鉛筆で小さく書いてある。きったない字でしょ。あの人が小さい頃ここに来て、自分の名前をもらったその夜に、こっそり書いたんだってさ。
嬉しくて嬉しくて、すごく嬉しくて、つい書いちゃったんだって。
うん、そんなこと言う人にはまるで見えなかったよね。でもそのときは「嬉しくて」を三回繰り返したんだ。おっかしいでしょ。
あの夜、ぼくはまだ何も知らなかった。あのときぼくは、ずっとあの人と一緒にいるつもりでいたんだ。
……ごめんなさい。順を追って話すべきだったよね。
じゃあ、Lとぼくがここに着いたときまでさかのぼるから。
環境保護団体を騙ったテロリストたちが起こした事件を、空港でLが解決した翌日、ぼくはLに手を引かれてこのワイミーズハウスに来た。
電車を乗り継いで、ケーブルカーにも乗って。途中でアイスクリームも食べたよ。とっても楽しかったな。
ここに着いたのはもう夕方だった。大きな門のとこでロジャーさんが出迎えてくれたよ。
ロジャーさんはLとひと言ふた言交わしたあと、ぼくの手を握った。そして玄関まで歩きながらぼくにいろいろ質問してきた。好きな食べものは何だとかどういう遊びが好きかとか、そんなどうでもいいこと。それに応えながらぼくは、ふいにLのことが気になった。
ふり向くと、すぐ後ろに一緒にいると思ってたLは門の向こうで、ジーンズのポケットに手を突っ込みいつものように丸めた背中を向けて、ここを立ち去ろうとしていた。
「L!」
思わずロジャーさんの手をふりほどいて、ぼくはLを追いかけた。
ほらあの人、前日に足をくじいてたから、あまり早く歩けないんだ。ぼくはすぐに追いついたよ。ここに来るときアーチ型の大きな橋が架かってたでしょ。あのたもとで、数メートル後ろについて、ぼくはあの人に聞いた。
「どこ行くの、L」
ところでスルガさん。松戸博士のとこで見たぼくとL、どんなふうに見えた?
うん、そうでしょ。やっぱりぼくがあの人に懐いてるように見えてたよね。でもそれはじつは逆なんだ。あの人が、ぼくから離れなかったの。
ぼくの姿がちょっとでも見えないとあの人、血相変えて探しにきた。
「言葉もわからない土地だというのに、小さな子どもがひとりになってはいけません」なんて、もっともらしいこと言ってたけどさ。あれは絶対、自分がひとりでいるのが心細かったに違いないよ。
だからね、ぼくはできるだけ彼の目の届く範囲にいるようにして、あの人を安心させるようにしてた。そうだよ、けっこう気を遣ってたんだから。
なのにずるいよね。自分勝手だよね。何も言わずにあの人、ぼくから去ろうとしたんだ。だからぼくも意地になった。絶対に思いどおりにさせてやるもんかって思った。
「どこ行くの、L」
夕焼けのなか、Lは足も止めずに、ぼくに背を向けたまま応えた。
「ニア、わたしが行くのは、あなたには関係のないところです。あなたはワイミーズハウスに戻って下さい」
「やだ」
ぼくは首をふった。
「ぼくもLと一緒に行く。あなたの仕事のお手伝いをするよ」
Lは、ぼくの言葉なんかまるで聞いてないふうに、上り坂になった橋を歩き続けた。
「あなただって知ってるでしょ。ぼくは特別だよ。ぼくがいればすごく役に立つよ。ふたりでコンビを組めばきっと世界最強だ。悪いやつらをどんどん一緒につかまえようよ」
ぼくだってずんずん歩いた。丸まった彼の背中に向かって訴えた。
「ひょっとして子どもだからできないって思ってる? でも、でも心配ないよ。ご飯もたくさん食べてすぐに大きくなる。勉強もするし、他のいろんなことだって努力する。急いで早く大人になる。だから、だから……」
「ニア」
向こうを向いたまま、Lは低くぼくの名を呼んだ。
「ワイミーズハウスに、戻りなさい」
「L……」
「戻りなさい」
いまから考えると、ずいぶん幼稚なことをしたなって思う。だけどあのときぼくは必死だった。必死であの人を引きとめようと、あの人の気を引こうとしたんだ。
「……L。あなたもぼくのことを、いらない子だって思ってるんだね?」
そして生涯、誰にも言わずにいようと思っていたことを口にした。
生まれたときにもらった本当の名前と、ぼくを金に換えようとした父親のこと。そしてぼくに「死ね」と言った母親のこともね。




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