小説 「L外伝2・新しいぼくら…」

「新しいぼくらの…」アンケート

Ty17l05s

「新しいぼくらの名前」、おかげさまで、終了しました。
毎回恒例、感想アンケート募集します。
差し支えなければ皆さま、お応えくださいませ。

 * * *

【1】 お気に入りのキャラは誰?
(A)L  (B)その他(           )

【2】 お気に入り、または逆に不満のあるシーンは?
(                        )

【3】 これからどんなものを読みたい?
A デスノート・LcWの二次創作シリーズ
B デスノート・LcW以外の二次創作(    )
C 二次創作以外の小説(    )
D 小説以外の創作作品(    )
E 映画の感想など、創作以外のもの

【4】 そのほか感想、質問、意見などあればどうぞ。
(                        )

メールのあて先は、こちら→「tomtit」へのメール
※回答には、お手数ですが上の文章をコピペしてお使いください。

漫画化のリクエストも、まだまだ受け付けています。

「L spin out the life」「15日目の雨の朝」「新しいぼくらの名前」
の作品中から、漫画で見たいシーンをお選びくださいませ。

「Lがリンゴ食ってむせるとこ」「Lが足の小指をぶつけるとこ」とか
そういう簡単な内容でかまいません。
目安として、描くのは見開き2ページか、長くても4ページ程度。

 * * *

……などといいつつ、すみません(汗)
じつはちょっとだけ体調を崩しておりまして
ブログの更新を、お休みとまではいかなくとも
少しゆっくりめにさせていただきたいと考えています。

丑年ですし、しばらく牛の歩みということで……。
とはいっても牛なので、何か興奮する事件があったら
かまわず突撃するかもしれませんけどどどッ。

金曜日にTVでやってた「デスノート the last name」も観ました。
あらためて観ると

月くんもLもほんとにヤなヤツでもう最高!(笑)

この1年で、わたしの中ではLの心情が変化しちゃたんで
あんなにヤなヤツだったということを、すっかり忘れていたわ~(笑)。
で最後は、やっぱり夜神パパに感情移入し、泣いてしまいました。

んで、あらためて、自分の過去の記事を読んでみたところ
「デスノート」「デスノート the last name」の感想って
いがいとアッサリしてんだよね。
それが、何ゆえこうなってしまったんだろう。
ここまでやるようになってしまったんだろう。

よくわからないです。

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新しいぼくらの名前 最終話

Ty17l05s

 * * * 《 最終話 ――エピローグ―― 》

 東京都心の小さな賃貸マンションの五階で、FBI捜査官スルガヒデアキは、テーブルに置いたラップトップ型のパソコンを操作していた。
 ここはスルガの自宅である。家財道具は必要最低限のものしか置かれていない。しごく殺風景な室内だが、長い期間を仕事で家を空けることの多いスルガには、このシンプルさがけっこう気楽だった。
 パソコンのモニタには、書きかけの報告書が映しだされている。

報告書 20XX年X月X日
東南アジアを拠点とした国際的児童売春、及び臓器売買組織の、
アメリカ・日本における流通ルート壊滅についての報告――――

 ひと段落して、椅子の上でうーんと伸びをし、胸ポケットを探ろうとしてスルガはふと、自分がここ数ヶ月タバコを断っていることを思い出し苦笑した。妙なものだ。タバコはやめられても、そのときからの癖はなかなか治らない。
 仕方なくキッチンに立ち、湯を沸かしてインスタントのコーヒーを入れると、マグカップを手にしたまま部屋からベランダに出た。
 街の喧騒がせわしなく聞こえる。酔っ払いなのだろうか、ケンカしているらしい声が通りにやたらと響いていた。スルガはインスタントコーヒーをひとくち啜るとカップを両手で抱え、だらりと手すりに寄りかかりながら、ぼんやりと街の灯を眺めた。

 二年前、スルガはひとつのメールを受け取った。
 差出人はL。
 暗号化されたそのファイルを読み解くと、中には「中途半端なもので申しわけないが、あとを頼む」という旨のメッセージと、世界じゅうの黒い金銭の流れを追ったデータが入っていた。
 スルガはそのデータをもとに、麻薬がらみの巨大な人身売買組織を、潜入捜査と慎重な裏付け捜査のもと一年半あまりかけて洗い出した。そして、最終的にはアメリカの八都市にも及んでいたその流通ルートと日本のルートを、末端の末端まで容赦なく叩きつぶした。
 拠点があったアジア某国においてはスルガは管轄外だったが、連携を組んだ国際刑事警察機構により、地元の警察内部にまで及んでいた組織の壊滅は確認されている。

 任務に就いているあいだ、スルガにはひとつ気にかかっていたことがあった。
 なぜ彼が、最後までこの事件にこだわったのか。
 メールが発信されたのは、彼の運命の時のほんの少し前だった。おそらく時間ギリギリになるまでこの作業をやっていたのだ。集められたデータは相当な量があった。きっと彼は最後の一日を、これらのデータを収集するために費やしたのだろう。
 なぜ彼が、そうまでしてこの事件にこだわったのか。
 裏を取らないとどうも落ち着かないのは生まれつきの性分か、それとも職業病か。過酷だった二年近くの任務を終えたのち、スルガは、以前に彼が「連れて行く」と言ったその場所まで足を伸ばした。
 そしてその答えは、スルガが推測していたとおりだった。

「……やっぱり、あの子のためだったんだよね」
 スルガは、きらめく夜の街を眺めながらそうつぶやく。
 いつのまにかぬるくなってしまったコーヒーを飲み干し、部屋に戻った。
 テーブルにつき、キーボードにふたたび向かおうとしながらふと、自分の手がまた胸ポケットをまさぐっていることに気付いて、スルガは苦笑する。
 そういえば、初めて会ったときに、喫煙のことを一発で見抜かれたんだよな。
 もとより潜入捜査を得意としていたスルガだったから、たったそれだけでも自分のことを短時間で見破られた事実に、正直、あのときは肝がかなり縮んだ。
 本当にたいした奴だったよ、あんたは。
 スルガはクスリと笑いながら、キーボードに軽く指を乗せて、報告書の最後に追記の一文を打ち込んだ。

尚、この事件においては、膨大な闇の金銭ルートをわずか一日で洗い出し、
捜査への重要な指針を示した名探偵、L Lawlietの貢献が大きかったものとして、
感謝の意を込め、特別、ここにその名前を附記する。

                 FBI極東方面担当捜査官 ヒデアキ・スルガ

                                       (終)

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新しいぼくらの名前 4

Ty17l05s

 * * * 《 4 》

 スルガさん、待たせてごめんなさい。キッチンからレモネード持ってきたからどうぞ。
 ……いい風。あの夜もこんな涼しい風が吹いてた。
 食事のあと、Lはぼくにチェスを教えてくれた。ベッドの上でいろんなお菓子を食べてごろごろしながら、何回か対戦したよ。
 あの人はやっぱりずっと穏やかだった。でもふとした瞬間……ぼくが次の手が浮かばずウンウン唸ってるあいだとか、すーっと深く考え込むようになって。そしてそんなときは暗い悲しみを秘めた表情で。
 ぼくは思った。Lが何か失敗したっていうことと、ひょっとして関係があるのかなって。だからさっき、ぼくがついてくるのも迷惑がったし、ワイミーズハウスにも寄らずにすぐ帰ろうとしたのかなって。

「ねえL、違う遊びをしようよ」
「……チェスは、飽きましたか?」
 Lの問いかけに、うんちょっとね、とぼくは応えた。
「もっと違うゲームをしたい。ねえ、クイズをやろうよ。Lが何か問題を出してよ」
 言葉のキャッチボールをすれば、この人がいま悩んでることの手がかりがつかめるかもしれないって密かに考えたんだ。
「そうですね」
 Lは指をくわえて少しだけ目をつぶった。それから立ち上がって出窓のそばに寄り、椅子の上に膝を抱えて座り込んだ。……うんそう、いまぼくがやってるみたいに。
 Lは、ベッドの上にきちんと座り直したぼくを長いこと見つめ、静かなゆっくりとした口調で語りだした。
「Xという人物がいます。Xは明日、ある人に会います。Xがとてもお世話になった人で、ずいぶん迷惑をかけました。大切なものも失わせました」
 そこでちょっとだけ目を伏せたあと、Lは続けた。
「彼はその人に、ぜひ感謝の言葉を述べたいと考えているのですが、何しろXは生来のひねくれ者。土壇場でまた妙なことを口走ってしまうのではないかと危惧しているのです。
 チャンスは明日の一回しかありません。
 さてニア、あなたならこのXという人物にどういうアドバイスをしますか?」

 参ったね。ぼくの意図は完全に読まれてたらしい。Lは直球で返してきた。わかるでしょ、クイズなんてもんじゃないよね。ていうか相談だよね、これ。
 彼は無駄な言葉のかけひきで時間を浪費することを避けたんだ。素直に「じつは斯く斯く然々」なんて告白しないのは、本人のいうとおり生来のひねくれ者だからだろう。
 だからぼくも、率直に解答を出した。
「簡単だよ。練習すればいいじゃない」
 練習? と聞き返すLに、ぼくは足をぷらぷらさせながらうなずいた。
「さっきLが言ったでしょ、焦りはいい結果をもたらさないって。
 なぜ焦るのかというと、まずは本人に自信がないから。Xさんの場合はまさにそれだよね。自信がなくて焦って失敗することを危惧してる。なら自信をつければいいんだ。これだけ練習したんだから失敗するはずがないって、自分に思い込ませればいいんだよ」
 なるほどそれで? とLは次をうながす。
「頭で考えるとどうしても緊張が先にくる。だから、言うことを事前に決めておいて、その人に会ったら自然に言葉が出るように、繰り返し繰り返し何度も練習する。頭の前に、身体で反応するようにしておくんだ。そしたら気持ちもリラックスしたままだから失敗する確率も低くなるよね」
「だけどもしXが、そんな練習なんか嫌だと考えていたら?」
 ぼくは「うーん」と、腕を組んで考えた。
「Xさんが、練習のどんなところが嫌だと考えているかにもよるよね。……面倒くさい? 手間や時間がもったいない?」
 こっそりとLの顔色をうかがう。
「あ、ひょっとして恥ずかしい?」
 Lは知らんぷりして、マシュマロか何か口に放り込んでる。
「そうだよ、生来のひねくれ者だというXさんならそういうこともあり得る。きっとそんなふうに一所懸命やるのが恥ずかしいんだ、恥ずかしいんだ、恥ず」
「わかりました、わかりました」
 いきなりLは椅子から跳ぶようにして立ち上がり、やたら早口で応えた。
「君のアドバイスをXに伝えます。練習すべし、と」
 うんってニッコリうなずいたあと、ぼくは「あともうひとつ」と付け加えた。
「Xさんてさ、本人は気付いてないかもしんないけど、じつのとこ意外と素直な性格なんじゃないかな」

 そんときのLの「超バカウケ」って表情、スルガさんにも見せてあげたかったよ。
「仕方がありません、告白します。Xというのはじつはわたし自身です。
 君のアドバイスによるとわたしは明日、人にお礼を言うために、その練習をこれからやらなければならない。君も協力してくれますか」
「えー、まじ?」ぼくはすっとぼけた声を出した。「そんなの全然わかんなかったあ」
 参った参ったって顔をしながら、Lはぼくを呼んだ。「ニア、こっちへおいで」
 ぼくはぴょんとベッドから跳び下りて、Lのもとに駆け寄った。
 床に座り込んだLとぼくは、出窓のところに頬づえをつきながら暗い窓の外を眺めた。夜はとっぷりと暮れて、窓ガラスにはぼくとLの顔が寄り添って映っている。
「……ニア」
 Lがとても静かに、ぼくの名を呼んだ。
「わたしはいま、心から思っています。君に会うことができて本当によかった」
 ぼくも静かに応えた。
「ぼくもだよ、L」

 そのとき、ぼくはふと思いついたんだ。
「ねえL。いまぼく、いいこと考えたよ!」
「何ですか?」
「ごほうびだよ、ごほうび!」
 ぼくはLの腕をつかんで、ぐいぐい揺さぶった。
「これがあるとないとでは全然やる気が違うよ。あのねあのね、明日Xさんがその人に素直にお礼を言えたら、伝えたいことをきちんと伝えることができたら、その瞬間からXさんは、Lっていう名前の人になるんだ」
「Lっていう……名前の人?」
 怪訝そうな彼に、ぼくは「うん」と勢い込んでうなずいた。
「新しいLって人になる。いままでとは違うLって人に、新しく生まれ変れるんだ」
 Lは、力なくかぶりをふった。
「ですがわたしはもう……」そこまで言って口をつぐんだ。
 ぼくは、全然そんなの気にしないで続けた。
「ぼくはとても若いからやり直せばいいって、Lは言ったよね。じゃあ大人になったら、もうやり直しは効かないの? 生きてるあいだじゅう自分の失敗のこと考え続けるの? いつまで生きるかわかんないのにさ。ねえ、そんなの変だと思わない?」
 Lは無言で、暗い窓の外を眺めている。
「たとえばぼくが、よぼよぼのおじいさんで明日死ぬかもしれないとしてもさ。さっきLがお風呂で言ってくれたみたいに、いま生まれ変わっていいってことになったら、ぼくは遠慮なく生まれ変わる。年とかは関係ないよ、だって自分の人生だもん。Lだって、自分の好きなとこから、新しくやり直しちゃえばいいんだよ」
 ぼくはそう言いながら、ガラスの中のLに向かって笑いかけた。
「ねえL、そっちのほうが理にかなってると思わない?」
 一瞬、あの人は目を伏せた。

 そしてふたたび顔を上げたとき、あの人の顔つきはもう違ってた。前を見据えながら、Lはすいと立ち上がり、そして、古い木の窓わくに手をかけた。
「ニア、君の言ったことはじつに正しい」
 ガラスに映ったLの瞳には、さっきまで湛えていた深い悲しみは全然なかった。彼の双眸には、世界を相手に数々の事件と対峙していたときの、それこそ何にでも挑んでいくような、迷いのない強い光が宿っていた。

「確かに、たとえ次の瞬間に人生が終わるとしても、それをやり直してはならないというルールは、この世のどこにも存在しません」

 Lが窓をからりと一気に引き上げると、高原の清涼な空気が入ってきてこの部屋をいっぱいにした。遠く黒い山々の稜線が見え、その上には満天の星がきらめき瞬いていた。
 新しい、L。
 Lは、星空を大きく仰いで見ながら、冴えわたる口調で言った。
「素晴らしい、ごほうびです」

 * * *

 そのあと、ぼくらはもちろん練習をやったよ。
 いやあれは「練習」なんて生易しいもんじゃなかった。「特訓」というべきだ。ぼくがヤガミさん……Lがお礼を言う相手はそういう名前だったね、その役を演じた。
 いかなる状況でも平常心を保つべし、との名目でゴリラのヤガミさんとか、よぼよぼヤガミさんとか、太っちょヤガミさん、おかまのヤガミさん、ワニのヤガミさん、ロボットのヤガミさん、何かわからないぐにゃぐにゃした生き物のヤガミさんといろいろ演ってみせた。そのたびにあの人は笑いをこらえるのに必死で、つらそうだったな。
 あれだけやったんだし、あの人のことだもの。きっとちゃんと成功したよね。
 Lは、新しく生まれ変わったと、ぼくはそう信じてる。

 それからまたチェスの対戦を何回かやったり、違うゲームもやってみたり、それにも飽きたらまた星を眺めたりと、いろいろ遊んでいるうちに、いつのまにかぼくは眠ってしまったらしい。気付くと、もう翌朝になってた。
 東向きの窓からは、朝の日差しが大きく入り込んでいた。お菓子やらゲームやらでとっ散らかった部屋にLの姿はなくて、ぼくはひとりきりだった。

「L?」
 ぼくはベッドから跳び下りて、窓に駆け寄った。
 窓を開けて庭を見下ろしたけど、そこにももう誰もいなかった。
 きっと、夜明け前にここを発ったんだって思った。
 やっぱりあの人、最後はぼくに何も言わずに行っちゃった。

 * * *

 ……さて、ぼくのLに関しての話はこれでおしまい。
 なにしろ二年前のことだから自信はないけど、記憶に残っている部分はできるだけ詳細に、会話も一言一句、なるべく忠実に再現したよ。
 スルガさん、何か参考になった?
 何を調べてるのかは、ぼく聞かないけど、これがあなたの役に立ったら嬉しいな。
 ねえ今度は、お仕事じゃなくて遊びでここに来てよね。いろんな楽しい場所も案内するから。スルガさんも、ずっと元気でいてね。

 じゃあまたね。バイバイ。

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新しいぼくらの名前 3

Ty17l05s

 * * * 《 3 》

 やがてLは、すん、と小さく鼻を鳴らしたあと、ぼくを抱いたまま立ち上がった。そして夕陽を背にして、痛そうに足をひょこひょことひきずりながら、いま来た道をゆっくりと戻った。ぼくはLを離さないよう、ずっとあの人の首にしがみついてた。

 ロジャーさんは玄関のところで、ぼくたちをふたたび出迎えてくれた。
「L、この子の部屋は東の棟の、あの部屋にしましょうね」
 優しく落ち着いた声でそう言われて、Lは小さく「はい」と応えた。
 ぼくを抱きかかえたままLは、またゆっくりと廊下を歩き、階段を上ってこの部屋まで来た。部屋に入ってぼくをベッドに腰かけさせると、さっきスルガさんがやってくれたようにライティングデスクを動かして、あの柱に書かれたものを見せてくれたんだ。
「これ、Lの名前?」
 のぞき込みながらぼくが聞くと、Lは応えた。
「ワタリにつけてもらった名前です。わたしがここに来た夜に、こっそり書きました」
 ワタリという人のことはFからも聞いたし、Lからも何度も聞いた。その口調から、ワタリがみんなにとても慕われていたことが推測できた。ぼくはワタリを知らないけど、もし会えたとしたら、ぼくもワタリのことを好きになったと思う。
「それまでのわたしは何者でもなかった。ここに来て、新しくLという名前を得て、初めて自分の存在を認められました。わたしは嬉しくて嬉しくて、すごく嬉しくて」
「……つい書いちゃったんだね」
 ぼくが笑うと、はい、とうなずいてLも少しだけ笑ってみせた。そして長い手を伸ばしてぼくの顔に触ると
「すっかり汗をかいてしまった。どうですニア、お風呂に入りませんか」
 そう言いながら、涙でぐちゃぐちゃになってた頬っぺをつるりと撫でた。

 大きなバスタブにお湯を張って、ぶくぶく泡だらけにしてふたり一緒に入ったよ。
 Lはスポンジでぼくの身体をこすりながら言った。
「ヒトの細胞は成人で約六十兆個だといわれています。子どもの場合はもちろんそれより少ないが、細胞分裂をかなりのスピードでくり返し、成長している。そして通常、体細胞は分裂回数に限りがある有限寿命細胞。常に新しいものが生まれ、古いものは剥がれ落ちている状態です」
「ふうん」
 Lは、やたらごしごしと、痛いぐらいにぼくの背中をこすった。
「つまり毎日、毎時間、毎分、毎秒、生命は新しく生まれ変わってるということです」
「うん」
 次に、ぼくの腕を左右交互に持ち上げながら、また強くごしごしとこすった。
「ニア。君はとても若い。ニアという名前を得たいま、忌まわしい過去にとらわれる必要などない。やり直せばいい。いま生まれ変わればいいのです。古い細胞はわたしがこうやって全部、落としてしまいますから大丈夫」
「うん」
 こっくりとうなずいたぼくに、Lは「それから」と言葉を継いだ。
「たくさんご飯を食べたり、勉強やいろんなことへの努力はたいへん結構。ですがそれで早く大人になる必要はありません。急ぐ必要はないのです。君はゆっくりと、手間と時間をかけて大人になって下さい」
「どうして? 早く大人になったら、早く結果が出るじゃん」
「急いで結果を出そうとすれば、必ず焦りが出ます。物事に対して、焦りは絶対にいい結果をもたらしません。わたしや、わたしの友人のように……」

 とりかえしのつかない失敗をすることになりますから。

 そう、Lが小さくつぶやくのが聞こえた。
「失敗? Lも失敗なんかするの?」
 Lはまた返事をしないで、ふり向こうとしたぼくの頭に、今度はざぶざぶと大量のお湯をかけた。

 お風呂から上がったら着替えが用意されてた。ぼくはパジャマで、Lはいつもの白いシャツに青いデニム。
 いま思うにロジャーさんは、Lがいつここに帰ってきてもいいように、常にあの人のお気に入りの服を着替えとして準備してたんだ。なのにあの人、最初は門のとこから入りもせず引き返そうとしてたんだから。困った人だよ。
 Lは足の湿布も貼りかえ、ぼくたちはさっぱりとした格好でこの部屋に戻った。小さなテーブルと椅子をセットしてもらって、温かいスープとパンという、質素だけどほっとするような夕食をふたりでとった。
 ううん全然。Lは文句なんか言わなかったよ。だって、あの人がそれを食べたいって自分で言ったんだもの。ぼくと同じものが食べたいって。
 まあそのあとに、ちゃっかりお菓子も口にしてたけどね。
 食事のあいだ、Lはずっと穏やかな微笑みを浮かべてた。「おいしいね」ってぼくが笑うと「おいしいですね」って応えて、ぼくの口の横についたパンくずを、手を伸ばして取ってくれたよ。
 ……ねえ、スルガさん、もうひとついいもの見せたげよっか。
 ちょっと付き合ってくれる? ラボラトリーに面白いものがあるんだ。

 * * *

 スルガさん、手を洗って上着と靴を脱いで、そこにある白衣と室内履きに替えてね。
 あ、さっき廊下ですれ違ってあいさつした子たちいたでしょ。あれはメロとマット、ぼくのライバルさ。
 そうだよ、もちろん彼らも天才。いつも「この中の誰がLを継ぐか」で競争してるんだ。 まあでも、競争っていってもお菓子のバカ食いとか。……ありがとう、そんなにウケてくれて嬉しいや。そりゃまじめに競い合うときもあるけど、三人それぞれ得意分野は違うし、普段はすごく仲のいい友だち。
 ありがとう、スルガさんずっと心配してくれてたんだよね。大丈夫だよ。ぼくはいま、こうしてとても幸せに暮らしてる。
 さ、こっちこっち。見せたいものは、この冷凍庫の中にあるんだよ。

 ……びっくりした?
 うん。あの人が残してった棒付きキャンディ。こんなふうに劣化しないよう密封して、一定温度で冷凍保存してある。もちろんDNAだって付着したままの状態だよ。
 ええ、クローン? 馬鹿なこと言わないで。DNAが残ってるといってもせいぜい唾液と頬の粘膜組織ぐらいなんだから、現在の技術じゃ無理、無理。
 ぼくが? 将来? もーう、スルガさんてば全然わかってないね。ひとくちに生命科学といっても、ぼくがやろうとしている集団遺伝学は、進化と遺伝を確率論や統計学みたいな数学的な手法を用いて研究するもの。試験管とかあんまり持ったりしないの。
 もしできたとしても、あんな非常識な人が何人も生まれ変わって出てくるなんて、考えただけで困るよ。みんなだって困るよねえ?
 だからこれは、単なるぼくのお守り。

 それに「生まれ変わる」という言葉からだけの観点でいえば、あの人はとっくの昔に新しく生まれ変わってるはずだ。
 うん、そうだよ。もちろん二年前にね。
 くわしくは、またぼくの部屋に戻ってから話すよ。キャンディしまうからこっちにくれる?

Tc0604
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新しいぼくらの名前 2

Ty17l05s

 * * * 《 2 》

 スルガさん、話は長くなるけどいい?
 ぼくの故郷がタイの田舎の、焼き払えばすむ程度の小さな村だったっていうことは知ってるよね。
 農業を生業とする小さな山村。うちは父親と母親、兄と姉とぼくに小さな弟の六人家族だった。ぼく以外の兄弟はみんな普通で、ぼくだけが異質な存在だった。村の人たちとの付き合いはあまりなかったね。でもそれは、ぼくのせいじゃないよ。父親が相当なろくでなしだったの。
 ある夜、両親の言い争う声で目を覚ました。
「自分の子なんだから、どうしようと勝手だろう!」
 父親の声だ。
「借金は消える。あの気味悪いのがいなくなって厄介払いもできる。いいこと尽くめだ。何の文句があるんだ?」
 察しはついたよ。どうやら父親は自分の借金のかたに、ぼくを巷で噂されてた人身売買組織とやらに売り渡したらしい。
「わからないのかい、あの子は特別な子なんだ。神さまから授かった子なんだ。そんなことして、罰があたるに決まってる……」
 そういう母親の声は小さく弱々しくて、とてもぼくを守れるとは思えなかった。
 でも、正直ぼくは嬉しかったよ。だってお母さんはいつもぼくには、兄さんや姉さんや弟にするみたいに笑ったりかまったり、あまりしなかったし。だからそのとき、そう言って庇ってくれたことは単純に嬉しかったんだ。
 でもまあ結局、どうあがいたってぼくは次の日には、業者に連れてかれる算段になってたんだけどね。

 ところが翌日、来たのはそいつらじゃなかった。あの殺人ウイルスだった。
 皮肉だね。考えてみればぼくは、殺人ウイルスに生命を救われたことになる。
 だってあの事件が起きなきゃ、ぼくは人身売買業者のものになって、生きたまま臓器を抜かれたか、あるいは金持ちの大人の男を相手に、好きなようにされてたってことだから。そうなったらもう、たぶんこの世にはいないでしょ。
 ……スルガさん、そんな顔しなくていいよ。大丈夫。話してる本人がいまこんなふうにピンピンして、笑って話してんだからさ。

 ウイルスにはね、まず小さい弟がやられた。その後、数日のうちに兄と姉。父親は喉でも渇いたんだろうね、裏のドブ川に頭を突っ込んだまま死んでた。
 母親は赤黒く変色した弟の亡骸とともに、衰弱しきった身体で家の奥の暗がりに横たわっていた。水を持っていこうとしたぼくに「近づくな」と枕を投げつけた。コップがひっくり返ってぼくのシャツはびしょ濡れになったよ。
「お前がやったのか」
 母親は、ぼくの本当の名前を呼んだあとそう言った。
「わたしらへの罰なんだろう? お前をひどい目にあわせようとしたわたしらへの罰なんだろう?」
「違う、ぼくは……」
 何もやってない、なんて言えなかった。確かにぼくは何もやってない、やってないはず。だけどぼくだけ元気でいるのはなぜ? 自分でもわからない。そもそも目の前で起きてるこれは何? 何デミンナ血ヲ流シテルノ? 何デミンナ死ンデッテルノ? オ母サンモコレカラ血ヲ流シテ死ヌノ?
「……おかあさん」
「くるな!」
 お母さんは、ごふっと口から大量の血を吐きながら叫んだ。
「気味の悪い子だけど神さまから授かった子だからと思って育ててきたのにお前は神さまから授かった子なんかじゃなかった。化け物だった。何てことだろうわたしはこれまで知らずに化け物を育ててきたんだ。このやろう化け物。死ね、死ね化け物、死ね」
 呪詛のようにくり返しながら、手当たりしだいにものをひっつかんで、ぼくに投げつけた。たまらなくなって家を飛び出したよ。村の、人々が倒れてもがき苦しむ中を走って突っ切り、そのまま森に入った。下草がどんどん身体にあたった。足をとられて何度も泥の中に転んだ。
 もう死んだっていいって思った。
 きっとぼくは、お母さんの言ったとおり残酷に人を殺す化け物。ぼくなんかがこの世に生きてちゃだめだったんだ。なぜ気付かなかったんだろう死んだほうが楽だっていうことにって。いままであんなに生き辛かったくせに、なぜ気付かなかったんだろうって。

 いきなりどすんと誰かにぶつかって、ぼくは地面に尻餅をついた。ぶつかったのは青い服を着た男の人。Fだよ。
 でもそのときは、ぼくを連れに来た業者のやつだって思った。変だよね。直前まで自分は死んでもいいぐらいに思ってたのに、やっぱり怖いものは怖いんだ。
 パニックになって逃げようとしたぼくの腕をぎゅっとつかんだまま「君はあの村の子だろう?」と、Fは問いかけた。
「信じられない。君はあのウイルスに触れたのに発症していないんだね」
 ぼくをつかんだFの手は、ものすごく熱かった。
「ういるす……ういるすって何」
「君の村の人たちをあんなにした犯人だよ。残念ながらこのぼくも遅かれ早かれ彼らと同じようになる。ここで君と出会えたのは幸いだった。君があのウイルスから世界を救うキーになるかもしれない」
 Fはそこで自分の名を名乗り、ぼくの身体にまったく異常がないことを再確認すると、それまで彼が野営してたという場所にぼくを連れていった。ぼくは水と食料を渡され、自分がふたたび迎えに来るまでこの場にじっと隠れているようにと告げられた。

 あとは、スルガさんもご存知のとおりだ。その後ぼくは、Fから殺人ウイルスについての重要データを託された。あれがぼくのせいじゃないと知って、正直ほっとしたよ。それから日本に来て、Lや真希お姉さんや、スルガさんにも会ったんだよね。
 いろんな人に名前を聞かれた。でも、それを言おうとするたびに血まみれのお母さんの顔が、ぼくに「死ね」と言う声が頭のなかで甦った。ぼくはもう自分の名前を忘れたいと思った。嫌な、忌まわしい記憶でしかない名前なら、ないほうがいい。いっそのこと名前なんていらない。そう考えてた。だから誰にも言わなかった。

 あるとき、Lがいきなり「やはり名前がないと不便だ」とつぶやいた。
「わたしはこれから、あなたをニアと呼ぼうと思います」
「ニア……『そばに』ってこと?」
 はい、とLはうなずいた。
「きちんと数えていたわけではありませんが、あなたがわたしのそばに来てからいままで、わたしはその言葉をいちばん多くあなたに対して発している。ですからそれを、あなたの呼び名にするのは順当だと思いませんか」
 瞬間、ぼくはめちゃくちゃグッドアイデアだと思ったよ。
「うん思う! 思うよ!」
 大きく叫んで笑ったら、Lも「気に入りましたか」と口の端を上げた。

 ねえL、ぼくにこの名前をつけてくれたのは、ぼくにずっとそばにいて欲しいからじゃなかったの?
 それとも、もう事件を解決してしまったから、ぼくのこといらなくなった?
 ねえL、応えてよ。L。

 * * *

 ……あのときは、こんなにきちんと順を追って話さなかったと思うよ。恥ずかしながら、ぼくかなりテンパってたからね。自分でも計算違いだったって思うのは、涙を見せて少し気を引くだけのつもりだったのに、ついついマジ泣きしちゃったこと。自分がまだ感情の抑制が効かない子どもだってことを、すっかり忘れてたんだ。

 気付くとLは橋の途中で、足は向こうに向いたまま、猫背の身をねじるようにしてこっちを見てた。夕陽が逆光になってたから、表情はつかめなかった。
「L!」
 ぼくが叫ぶと同時にあの人はくいっと踵を返し、一気につんのめるようにして足をこっちに踏み出した。そのまま前にがくりと崩れ落ちそうになったあの人の胸に、思わずぼくは走って飛び込んだよ。
「L、行かないで」
 膝をついたあの人の首根っこに、ぎゅうっとしがみついてぼくは泣きながら訴えた。
「ぼくをひとりにしないで。ずっとぼくのそばにいて」
 Lは、返事をしなかった。
 返事をしなかったけど、そのかわり、ゆっくりとぼくの背中に手をまわして、その手でぼくを、うんと力いっぱい抱きしめてくれた。

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新しいぼくらの名前 1

「新しいぼくらの名前」
映画「L change the WorLd」をベースに創作した
二次創作(スピンアウト)小説「L spin out the life」の、ふたつめの番外編です。

若干、設定の変更もありますが
LcWの二次創作として、そのまま読むこともでき……できるかも(笑)。

ニアとLの物語です。
ただしニアは、福田響志くんが演じた映画版<BOY>のほう。

響志くん。今回、台詞チョー多いけど(笑)がんばれ。
Ty17l05s

新しいぼくらの名前 《 1 》

 おひさしぶり。元気だった?
 背が伸びた? 当然だよね、あれから二年も経ったんだもの。スルガさんはちょっと老けたんじゃない?
 あはは、うそだよ安心して。まだあのお仕事を続けてるんでしょ。
 日本語も上手くなった? だからまるまる二年も経ってるんだもの。これくらい当然だよ。そうだねいまなら「環境対策におけるバイオレメディエーションの可能性と現時点での問題点」についても、あなたと小一時間ぐらいはディスカッションできるけど。
 ……あ、やめとく。そうだよね、そういう話をしに、このワイミーズハウスまでわざわざ来たわけじゃないもんね。
 ねえせっかくだからスルガさん、ラウンジじゃなくて、東の棟にあるぼくの部屋で話をしようよ。あなたに見せたいものもあるしさ。

 こっちこっち、ここの三階。あ、階段、古いから気をつけてね。
 ぼく? いま? 生命科学に興味を持ってるんだ。集団遺伝学をやろうと思ってる。
 えーとね、すごく簡単にいうとね、生物集団内における遺伝子の構成・頻度の変化に関する遺伝学の分野のひとつ。ダーウィンの進化論とメンデルの遺伝法則が合わさったようなものだよ。交配実験が不可能なヒト集団の遺伝学的組成に関する研究にも役立ってるんだ。犯罪傾向の大きい気質というものが存在して、それが遺伝とも関わりがあるなら、その仕組みを解明することにより、ある程度の犯罪抑止力はあるかもしれない。
 うん。たぶん二年前の、あの事件がきっかけだね。やっぱり自分がなぜこういう他人と違う体質で生まれたのかも、ちゃんと知ってみたいってこともある。

 ところで、真希お姉さんとも会ったの? このあと行くの? ……ふうん、行かないの。
 うん、連絡はとってるよ。彼女いま松戸博士のとこにいるんだってね、よかったよね。博士は少しおっちょこちょいだけど、いい人だからね。いまウイルスとヒトの共存を考えた野菜作りを目指してるらしい。他にもいろんな微生物の力を借りて抵抗力の強い野菜を作ることが、博士の目下の楽しみなんだって。いまはもう毎日、麦わら帽子姿で畑に出ているそうだよ。これは真希お姉さんからの情報。
 お姉さんは、去年のクリスマスに手編みのすごく長いマフラーを贈ってきた。彼女いったいぼくの身長をどれくらいだと思ってるんだろう。まじ背丈より長かったんだよそのマフラー。ああ見えて結構おっちょこちょいなんだよね。……スルガさん、そこまで笑うと真希お姉さんがかわいそうだよ。
 でもここだけの話さ。博士と彼女、おっちょこちょい同士で気が合ってるのかもね。

 さあ着いた。
 眺めがいいでしょこの部屋。日当たりも、風通しもいいんだ。高原だから夏はとっても涼しいし。あ、そこのベッドに腰かけてくつろいでいいよ、スルガさん。
 ここが、いまぼくが暮らしてる部屋。
 そして二年前、Lが二十二日目の……そう、生きて最後の夜を過ごした部屋だよ。

 * * *

 いきさつは聞いてる。
 死神から提示されたルールにより、彼が自分の名前をノートに書いた日から数えて、残り寿命が二十三日となってしまってたことだね。
 ぼくがここに慣れて落ち着いた時期になったら真実を伝えるようにって、あの人がロジャーさんに頼んでいたらしい。ロジャーさんていうのは、あなたを下で出迎えてくれたあの年配の人のこと。ワイミーズハウスの院長。いまとてもお世話になってるんだ。
 ぼくがそれを聞いたのは、Lがいなくなってから三ヶ月後さ。
 ……ね、スルガさん、いいもの見せたげよっか。
 ライティングデスクを動かして、壁から離してくれるかな。うんそこ。柱の下のほうが見える? よく見てよ。

 言っとくけど、カタカナの「レ」じゃないよ。
 L。L Lawliet。
 あの人の名前。鉛筆で小さく書いてある。きったない字でしょ。あの人が小さい頃ここに来て、自分の名前をもらったその夜に、こっそり書いたんだってさ。
 嬉しくて嬉しくて、すごく嬉しくて、つい書いちゃったんだって。
 うん、そんなこと言う人にはまるで見えなかったよね。でもそのときは「嬉しくて」を三回繰り返したんだ。おっかしいでしょ。
 あの夜、ぼくはまだ何も知らなかった。あのときぼくは、ずっとあの人と一緒にいるつもりでいたんだ。

 ……ごめんなさい。順を追って話すべきだったよね。
 じゃあ、Lとぼくがここに着いたときまでさかのぼるから。
 環境保護団体を騙ったテロリストたちが起こした事件を、空港でLが解決した翌日、ぼくはLに手を引かれてこのワイミーズハウスに来た。
 電車を乗り継いで、ケーブルカーにも乗って。途中でアイスクリームも食べたよ。とっても楽しかったな。

 ここに着いたのはもう夕方だった。大きな門のとこでロジャーさんが出迎えてくれたよ。
 ロジャーさんはLとひと言ふた言交わしたあと、ぼくの手を握った。そして玄関まで歩きながらぼくにいろいろ質問してきた。好きな食べものは何だとかどういう遊びが好きかとか、そんなどうでもいいこと。それに応えながらぼくは、ふいにLのことが気になった。
 ふり向くと、すぐ後ろに一緒にいると思ってたLは門の向こうで、ジーンズのポケットに手を突っ込みいつものように丸めた背中を向けて、ここを立ち去ろうとしていた。
「L!」
 思わずロジャーさんの手をふりほどいて、ぼくはLを追いかけた。
 ほらあの人、前日に足をくじいてたから、あまり早く歩けないんだ。ぼくはすぐに追いついたよ。ここに来るときアーチ型の大きな橋が架かってたでしょ。あのたもとで、数メートル後ろについて、ぼくはあの人に聞いた。
「どこ行くの、L」

 ところでスルガさん。松戸博士のとこで見たぼくとL、どんなふうに見えた?
 うん、そうでしょ。やっぱりぼくがあの人に懐いてるように見えてたよね。でもそれはじつは逆なんだ。あの人が、ぼくから離れなかったの。
 ぼくの姿がちょっとでも見えないとあの人、血相変えて探しにきた。
「言葉もわからない土地だというのに、小さな子どもがひとりになってはいけません」なんて、もっともらしいこと言ってたけどさ。あれは絶対、自分がひとりでいるのが心細かったに違いないよ。
 だからね、ぼくはできるだけ彼の目の届く範囲にいるようにして、あの人を安心させるようにしてた。そうだよ、けっこう気を遣ってたんだから。
 なのにずるいよね。自分勝手だよね。何も言わずにあの人、ぼくから去ろうとしたんだ。だからぼくも意地になった。絶対に思いどおりにさせてやるもんかって思った。

「どこ行くの、L」
 夕焼けのなか、Lは足も止めずに、ぼくに背を向けたまま応えた。
「ニア、わたしが行くのは、あなたには関係のないところです。あなたはワイミーズハウスに戻って下さい」
「やだ」
 ぼくは首をふった。
「ぼくもLと一緒に行く。あなたの仕事のお手伝いをするよ」
 Lは、ぼくの言葉なんかまるで聞いてないふうに、上り坂になった橋を歩き続けた。
「あなただって知ってるでしょ。ぼくは特別だよ。ぼくがいればすごく役に立つよ。ふたりでコンビを組めばきっと世界最強だ。悪いやつらをどんどん一緒につかまえようよ」
 ぼくだってずんずん歩いた。丸まった彼の背中に向かって訴えた。
「ひょっとして子どもだからできないって思ってる? でも、でも心配ないよ。ご飯もたくさん食べてすぐに大きくなる。勉強もするし、他のいろんなことだって努力する。急いで早く大人になる。だから、だから……」
「ニア」
 向こうを向いたまま、Lは低くぼくの名を呼んだ。
「ワイミーズハウスに、戻りなさい」
「L……」
「戻りなさい」
 いまから考えると、ずいぶん幼稚なことをしたなって思う。だけどあのときぼくは必死だった。必死であの人を引きとめようと、あの人の気を引こうとしたんだ。
「……L。あなたもぼくのことを、いらない子だって思ってるんだね?」

 そして生涯、誰にも言わずにいようと思っていたことを口にした。
 生まれたときにもらった本当の名前と、ぼくを金に換えようとした父親のこと。そしてぼくに「死ね」と言った母親のこともね。

Tc0604
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