major 第1場
「major」は、オリジナルBL小説
よっちゃんと大山くんシリーズの第二弾です。
時系列では、前作「見上げた空は」のあとになっていますが
書き上げたのはそれより前で、彼らのシリーズの記念すべき第一作です。
舞台劇の脚本、「戯曲」のかたちをとっています。
じつをいうとこの時点では、ごくフツーの青春物語。
おもて向きはいちおう、健全路線まっしぐら(笑)です。
若干、設定が「見上げた空は」とは異なっていて
大山くんと石橋さんは面識がない、ということになっています。
よっちゃんと石橋さんは……ムフフ、ご想像におまかせ(笑)。

major
【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。
【第1場】
春、夕方の学生サロン。
上手が部室通りに、下手は各学部を結ぶ大きな通りに面している。
上手寄りにソファとテーブルのセットが2つ。
上手側はL字型、中央側はI字型に設置してある。
中央のソファの横に、背の高い観葉植物。
上手より、台本を読みつつ黒木カオルが登場。上手側の席に座る。
しばらくして、大山賢太が上手より登場。黒木を気にしつつ、
そわそわと舞台を歩き回ったあと、黒木の斜め前に座る。
大山 「……黒木くん」
黒木 「うん」
大山 「どう?」
黒木 「うーん。(顔を上げ)ちょっと、説明が多すぎるんじゃないか?」
大山 「……うん」
黒木 「なんか、話のラストがこうだろ?
それに持っていくために、ムリやり……なんかみんな、
そのためのセリフを喋らされてるような、そんな感じがする」
大山 「……うんうん」
黒木 「例えばさ、ここの『去年、旅行先の沖縄で病気になったとき、親切に
してくれた島のおばあが言ってたよ』なんて、日常じゃ絶対使わないよな」
大山 「……うーん」
黒木 「それに、例えちょっと変わった人がいたとしても、『変な人』なんて
よほどのことがない限り、その場ではそれ言わないだろ」
大山 「……う、うーん」
下手より水村好男が登場。手に小さいレジ袋を下げている。
大山が彼に気づく。
大山 「よっちゃん、こっち!」
水村 「あっ」
水村、ニコニコしながら2人に近づく。
途中で、無意識に中央側のテーブルにレジ袋を置く。
水村 「大山くんあのね。こないだ話をしていた、
記録映画を撮ってる、ぼくのおじさんとこの会社に、プロ用の
撮影機材なんかを一式借りるっていう話、おじさんに通したよ」
大山 「やった!」
黒木、イヤそうな顔。
黒木 「あのさあ(苦笑)そこまでていねいに言わなくても、ちゃんとわかってるよ」
水村 「うん。でもひょっとして、忘れてるかも……って思ったから」
黒木 「忘れてないよ」
水村 「でね、おじさんとこ、フィルムのほうは、もう扱ってないんだって。
仕事も全部、ビデオでやってるんだって」
黒木 「(大山に)ほら、やっぱりそうだろ。
フィルムはやめたほうがいいって。扱いが難しいんだって」
大山 「……うーん」
黒木 「ビデオだったらさ、編集は簡単だし、学校のパソコンも使えるだろ」
大山 「……うん(不満そう)」
大山、ポケットを探る。
大山 「そしたらさ、よっちゃん。忘れないうちに金渡しとく」
水村 「えっ、でもいくらかかるか、まだ聞いてない」
大山 「俺、持ってると使いこみそうで怖いんだ」
よっちゃんならそのへん、しっかりしてそうだし」
黒木 「(つぶやく)しっかり?」
大山 「10万円入ってる。足りなかったらまた言って」
水村 「あ、うん」
水村、大山から封筒を受け取り、ズボンのポケットに入れる。
水村 「あれっ(探る)。ぼくの、ハムスターのエサは?」
黒木 「(あきれつつ)あっちのテーブル」
水村 「あっ」
水村、中央の席のレジ袋を手にとる。
水村 「ありがとう黒木くん」
大山 「よっちゃん、帰るん?」
水村 「うん。……まだなにかあるの?」
大山 「あのね、あとちょっとしたら猪又さんも来るからさ。ちょっと待っててよ」
水村 「猪又さん。(パッと明るく)待ってる待ってる!」
水村、中央の席に、膝を抱え込んで座る。
黒木 「(大山に)水村って、猪又さんには会ってるんだっけ」
大山 「えっと。(水村に)よっちゃん、猪又さんに会ったことあったっけ」
水村 「ううんないよ。でも大山くんが、ものすごく会いたい人だから、ぼくも!」
水村、レジ袋からハムスターのエサを、つぎつぎ取り出す。
それをていねいにテーブルに並べ、じっくりと眺める。
大山 「ああ、なんか考えるとドキドキする。
ホント、猪又さんに会いたくて、この大学選んだみたいなもんだし。
(黒木に)肝心の映研がこんなにショボいのは、予想外だったけど」
黒木 「悪かったなショボくて。主要メンバーは卒業しちゃったんだよ。
……あ(イヤな顔)一人いるか」
大山 「谷さん?」
黒木 「また、来るんじゃないだろうなあ」
大山 「なんで? イヤなの?」
黒木 「だって、厳密にいうと、あの人部外者なんだよ。
でも、デカイ面してんだよな。はじめて俺が参加したとき……」
大山 「黒木くん、どれから参加したんだっけ」
黒木 「燕とエアポート」
大山 「あ、2本めからか」
黒木 「それと『パピエブラン』」
大山 「あっ俺、それ大好き(ニッコリ)」
黒木 「でさ、俺がはじめて参加したとき。
あ、そんとき俺も部外者だったんだけど、高校生だから一応。
いろいろ雑用あるだろ。荷物運ぶとか、買い出し行くとか」
大山 「うん」
黒木 「そういうの、絶対しないの。こっちが必死で働いてんのに」
大山 「へえ」
黒木 「でさ、いまでも印象に残ってることがあんだけど」
大山 「なになに」
黒木 「ロケに泊まりがけで行ってさ、朝メシ用意するだろ。
で、簡単にと思って、ゆで玉子なんかつくるだろ」
大山 「いっぺんに」
黒木 「うん。それで、ゆで玉子ってさ、ふつう丸のまま出すよね」
大山 「(うなずく)ゴロッって」
黒木 「でも、谷さんの分だけ、むいてきれいに輪切りしてあるの」
大山 「なんで?」
黒木 「猪又さんがむくんだよ。で、玉子切り器ってあるだろ。
こう、ガシッて押さえるやつ」
大山 「あーあー、ビルマの竪琴みたいなあれ」
黒木 「ビルマかどうかは知らないけど、それ。
それで切って、サラダとかの上に盛りつけるの」
大山 「なんで?」
黒木 「わっかんないんだよ。みんなに聞いたら、前からそうなんだって。
玉子切り器、猪又さんがわざわざ持ってくるんだって」
大山 「へえ?」
黒木 「だって監督だぜ。しかも、どのコンペに出しても必ず入賞するって伝説の
持ち主なんだぜ? それが、玉子切るんだよ。ひとりぶんだけ」
大山 「うーん」
黒木 「しかもね。その玉子切ってる時の猪又さんの顔がさ
なんつーか、至福っつーか。ものすごい幸せそうでさ。
こんなに楽しいことはないって顔しててさ」
大山 「なんで?」
黒木 「な? なんでって思うだろ」
大山 「思う思う」
黒木 「変なんだよ」
大山 「変だよ」
黒木 「変だろう」
大山 「変だわ」
大山と黒木、それぞれに、いろいろと考えをめぐらせる。
大山 「……谷さんて、猪又さんの親友なんだよね」
黒木 「うん。中学の同級生て言ってた。
いまは……えっと、2年遅れてんだよな。
まあ、あれだけ遊んでれば、留年するのもムリないよ」
大山 「でもさ。谷さんて、あれ。アレ、すごくない?」
黒木 「あれ?」

下手より、谷雪耶が登場。
谷 「よー、ひさしぶりッ!」
大山、黒木、あわてて立ちあがる。水村、遅れて立つ。
大山 「ごぶさたしてます(おじぎ)。あの、今日はお呼びだてして……」
谷 「俺は呼ばれてねえよ。おもしろいから来ただけ。
(見まわして)猪又、来てねえんだ」
黒木 「えっ、猪又さんと一緒じゃないんですか?」
谷 「違うよ」
谷、水村の横に座る。
谷 「なに映画作るんだって? 監督、誰?」
大山 「ぼくです!」
谷 「へー。……えっと」
大山 「大山です」
谷 「大山くんかあ。何、どんな話?」
大山 「いや、その……」
黒木 「脚本、まだ全然できてないんですよ」
谷 「(笑う)ええ、大丈夫なん?」
谷の携帯電話が鳴る。
谷 「はいはーい、谷でーす。……ああ、メグちゃん、元気ー?」
谷、電話をしながら下手へ移動。
谷 「あ、うんうん、パーティ券ね。……うん、かかわってるよ。……うんうん、
10枚ね。オッケーちゃんと取っとく。じゃバイビー(切る)」
戻ろうとした途端、また電話が鳴る。
大山 「(黒木に)ほら、すごくない?」
黒木 「……(うなずく)」
谷 「はいはーい、谷でーす。……やっほーミキちゃん、元気ー?
……え、サブローズのライブ。うん、やってるよ。
うんうん6枚ね、オッケー。バイビー」
戻ろうとした途端、またまた電話が鳴る。
「はいはーい」と出ながら、下手のほうに行く谷。
大山と黒木、台本の直しを再開する。
黒木 「でさ、ここの『もと中学サッカー部主将』ってセリフ、
自分で言ってみた? これさ、言えないよ」
大山 「言えない?」
黒木 「うん。(水村に)ちょっと水村、来て」
水村 「なーにー?」
水村、2人のところに行く。
黒木 「あのさ、『もと中学サッカー部主将』って、言ってみて」
水村 「もとちゅうがくシャッカーぶしゅそう」
黒木 「ほら」
水村 「もとちゅうぎゃくしゃっかーびゅすそう。……あれえ?」
黒木 「見ろ、カミカミだよ。言えないセリフは使っちゃダメだよ」
谷が電話を切り、戻ってきて
テーブル上のハムスターのエサを、興味深げに手に取る。
大山 「うん。でもここ、どうやって説明すんの。もとちゅっかーぶ……だって」
黒木 「それは大山くん、君が考えることだよ。監督、脚本は君なんだからさ」
谷、袋を開けて食べてみる。
谷 「うえっマズ! なんだこれ、お菓子じゃねえの?」
水村 「あっ、ぼくのうにたんのエサ……」
谷 「うにたん? うにたんって何だよ」
水村 「ぼくのハムスターの名前です」
谷 「ええっ、ハムスターってネズミじゃん。
うわあ、ネズミのエサ食っちまった(大げさにえずくマネ)」
水村 「ハムスターは、ネズミじゃないですよ」
谷 「ネズミだろ、ネズミの一種!」
水村 「そうだけど、違いますてば」
谷 「そうだけど違いますって、違うのかそうなのか、どっちだよ」
大山と黒木、あわてて2人のあいだに仲裁に入る。
黒木 「すみません谷さん。こいつ、ハムスターのことになると見境がなくって」
大山 「よっちゃん、ケンカなんかしたら、君のうにたんが悲しむよ!」
水村 「(ハッとして)ごめん。(谷に)ごめんなさい」
谷、ポカンとする。
谷 「あ、いやその。なんかこっちも悪かったし」
大山、エサを持ち、水村も連れて、上手側の席へ移る。
谷 「そういや、さっきメール入っててさ。猪又から」
黒木 「猪又さんから?」
谷 「うん。今日は用が入ったから、来られないってさ」
黒木 「猪又さん、来ないんですか」
水村 「(ガッカリして)猪又さんが来ないんだったら、ぼく帰る」
大山 「うん」
水村、立ちあがり、下手へ歩く。
大山 「よっちゃん!」
水村 「ん?(ふり向く)」
大山 「バイバーイ」
水村 「バイバーイ」
水村、去る。
谷 「俺も帰ろっかなー」
大山 「俺も……(席を立つ)」
黒木 「まだ直しがあるよ」
大山 「黒木くん、もう明日しよ、明日」
黒木 「大山ぁ」
上手へ去る大山。それを追うように黒木も上手へ消える。
谷も、電話をかけながら下手へ去る。
暗転。




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