戯曲 「major」

「major」アンケート

ここ3日間、SMAPが福岡で公演中だそうで。
友人もこの寒さのなか、泊りがけで出かけております。

数年前の台風のときも、最高におもしろい話が聞けたが
今回は、寒波襲来ときたもんだ(笑)。
お土産ばなし期待してるよ、MARUどの!

Tm02

と、いうわけで(?)うちの
ゆかいな映画小僧五人衆のお話「major」も
めでたく、フィナーレを迎えました。
毎度のことですが、感想アンケートを募集したいと思います。
差し支えなければ皆さま、お応えくださいませ。

 * * *

【1】 お気に入りのキャラは誰?
A 大山くん B よっちゃん C その他←ひとまとめかよ!(   )

【2】 お気に入りのシーンは?
(                 )

【3】 これから、どんなものを読みたい?
A 大山くんとよっちゃんのシリーズ
B 大山くんとよっちゃん以外のキャラが登場するBL小説
  例/黒木受け(笑)とか? 猪又×谷とか?

C BL以外のジャンルの小説(    )
D 戯曲、コミックなど、小説以外の創作作品(    )
E 映画の感想など、創作以外のもの

【4】 そのほか感想、質問、意見などあればどうぞ。
(                 )

メールのあて先は、こちら→「tomtit」へのメール
※回答には、お手数ですが上の文章をコピペしてお使いください。

 * * *

8月からですから、およそ3ヶ月の連載でした。
戯曲という、皆さんにはあまりなじみのない表現形式で
あまり、読みやすいものではなかったろうと思います。
そんななかで
楽しみにしてくれて、読んで下さっていた皆さん
どうもありがとうございました。

途中で、挿絵を入れるべきかなと思ったこともあったのです。
でも、戯曲(脚本)という表現手段は
この時点で完成しているわけではないのですよね。
お芝居の場合、これに演出家、舞台美術、役者など
作品にたずさわる、さまざまな人の持つイメージが立体的に加わり
そこで、はじめて完成品となるわけです。

もちろんわたしの中では、大山はこんな感じとか
よっちゃんはこんな感じとか、きちんとしたものがあるのですが
それで挿絵を入れてしまったら、イメージが限定されてしまうなあ
と、そう思ったので、けっきょく挿絵は入れないことにしました。
(舞台の配置も、とりあえず便宜上のものです)

そのかわりといっては何ですが
キャスティングごっこを、勝手に楽しむことができますだよ!
例えば、もし
大人計画の役者さんで、全員をキャスティングしたら……とか。
(それだったら、よっちゃんはおそらく荒川良々だな、とか)

いいんじゃない? 荒川良々(笑)

この後に及んで、気になるところといえば
谷さんの葛藤についての描写が、いまいち少なかったかなあ。
執筆当時は「いかに台詞を削って、シンプルな言葉で心情をあらわすか」
ということに、心血そそいでたんです。
いま読むと、ちょっともの足りない気もしますね。

あとね、算用数字と漢数字が、ごっちゃになっちゃってるの(笑)。

いずれも、いつか気が向いたとき
こっそり手を入れようと思います……。

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major 第4場

Tm02

【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。

【第4場】

     夕方の学生サロン。5人が集まり、祝杯をあげている。
     ビールやジュース、スナック菓子などが、テーブルに並べられている。
     全員、すでにできあがっているようす。

大山 「猪又さんの、ヘルウィーク終了を祝して、カンパーイ!」

     口々に「カンパーイ」の声があがる。

黒木 「いったい何回、乾杯するんだ」

谷  「(ナッツを手に)ほーら、よっちゃん」

     谷が、ナッツを水村に向けて放る。水村、口を開けてキャッチ。
     大山もナッツを放る。水村、どうやらオモチャ扱いされているらしい。
     猪又と黒木は、話し込んでいる。

猪又 「(黒木に)ふうん、延ばすんだ」

黒木 「話しあって、準備期間をちゃんと置こうよってことになりました。
    1ヶ月あれば、脚本も絵コンテも何とかやれると思います。
    1ヶ月……ちょっと、キツいかな」

猪又 「やれるよ」

黒木 「あと、スタッフに役者、その他もろもろ。
    谷さんが、いろんな人に声かけてくれるそうです」

猪又 「……(うなずく)」

黒木 「あせって不本意なもの作るより、ちゃんとやりたいですから」

猪又 「俺もなるべく来るよ」

黒木 「ムリしなくても」

猪又 「来たいんだって。俺が。(大山に)大山、おい大山!」

     大山が気付いて、猪又と黒木のところに来る。

猪又 「黒木に感謝しろよ」

大山 「ありがとう。ありがとう、黒木くん。ン~(キスを迫る)」

黒木 「お前、グデングデン。わっこらやめろ。息を吹きかけるな」

水村 「(ナッツをキャッチしながら)一ヶ月後は、赤ちゃんも生まれてまふね」

大山 「(立ちあがり)猪又さんの赤ちゃん誕生を祝して、カンパーイ!」

全員 「カンパーイ!」

     サロンは、狂乱の域に達している。

大山 「えー、ここで直撃インタビューです!」

     拍手がわく。マイクに見たてた缶を猪又に向ける大山。

大山 「猪又さん。映画作るのと赤ちゃん作るのと、どっちが楽しいですか?」

猪又 「映画と赤ちゃんと? (意味ありげに)そりゃ、なあ」

黒木 「(同時に)大山バカッ」
猪又 「(同時に)映画だよ」

     全員、思わず顔を見合わせる。
     笑いをこらえているが、我慢できずやがて爆笑。
     携帯電話が鳴る。あわててとろうとする谷だが、彼のものではない。

大山 「あ、俺だ。(ディスプレイを見て)知らない番号」

     大山、みんなから離れて電話に出る。

大山 「はい。大山です。……はい? イシバシ映像企画?」

水村 「あっ、ぼくのおじさんだ!」

大山 「あ、はいはい。よっちゃ……好男くんに連絡とれずに。……はい、機材の件」

     全員、なんとはなしに電話に注目。

大山 「すみません。せっかくなんですけど、ひと月ほど待っていただいて
    いいでしょうか。あの、申しわけないんですけど、お金をなくしちゃって。
    あ、はいお金。……はい? (叫ぶ)そこにあるう!?」

水村 「あっ(立ちあがる)」

大山 「一週間前に好男くんが来て、自分じゃ失くすからって言って置いてったあ!?」

水村 「思い出したッ!」

大山 「はい……はい。ありがとうございます。失礼します」

     大山、電話を切る。水村をにらむ。

大山 「……よっちゃん」

水村 「エヘッ」

大山 「エヘッじゃないよ。……コチョコチョの刑!」

     あわてて逃げようとする水村を、黒木がつかまえる。

大山 「ナイスタックル!」

     大山と黒木、2人がかりで押さえこんで、水村をくすぐりまくる。
     笑いながら眺めている猪又と谷。

谷  「猪又」

猪又 「うん?」

谷  「俺さあ」

猪又 「うん」

谷  「結構、ムリしてたんだなあって」

猪又 「(笑う)お前、前からそうだよ」

谷  「なに」

猪又 「中学の修学旅行んときゲロ吐いたの、あれ、ゆで玉子のせいだろう」

谷  「……うん」

猪又 「俺のカバンの上に」

谷  「……うん(落ちこむ)」

猪又 「だからさ、ムリして食えないもん食わなくてもいいんだよ」

谷  「……うん」

猪又 「ムリしても、食えないもんは食えないし。
    ムリしなくても、いずれは食えるようになるものも、あるんじゃねえの?」

     谷、照れくさそうに笑う。

谷  「……なりたかったんだよな」

猪又 「うん?」

谷  「あんたみたいに。ずっと」

猪又 「ふーん」

谷  「でも所詮、他人になれるわけがないし」

猪又 「うん」

谷  「俺は、俺のままでいいのかなーって」

猪又 「うん」

     いっぽう3人組は、いつのまにか形勢が逆転。
     黒木がくすぐられる立場になり、プロレス技などもかけられている。

谷  「……でさ。前から聞きたかったんだけど」

猪又 「なに?」

谷  「俺にさ、よく玉子切ってくれてたろ。輪切りに」

猪又 「ああ」

谷  「あれ、不思議だったんだけど。
    そりゃ、丸のままじゃなくて、剥いて輪切りにしたら
    なぜかちゃんと食えるんだとは、言ったことあったけど」

     猪又、笑う。

猪又 「俺、そういうのが大好きなんだよ」

谷  「何が? 輪切りが?」

猪又 「人が『食えない』つってるものを、
    なんとかごまかして、だまくらかして、おいしく食わせるっての」

谷  「はあ?」

猪又 「そういうのが楽しくてたまんないの。
    そういうのに、この上ない幸せを感じるんだよ。俺って(笑う)」

谷  「なんだそれ(笑う)」

     3人組の形勢はさらに逆転。大山がくすぐられる立場になっている。
     谷、立ちあがり、大山たちの騒ぎに加わる。

     舞台は狂乱のまま、幕。

                                     (おわり)

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major 第3場(後半)

Tm02

【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。

【第3場 (後半)】

猪又 「(大山に)で? 結局やめるのか」

大山 「……あきらめます」

     大山、ため息をつく。

大山 「才能ないってわかったし。好きとできるは、違うと思いました」

猪又 「好きとできるは、違うよね」

     猪又、大きくアクビをする。

猪又 「俺も同じ」

大山 「え……(猪又を見る)」

猪又 「尊敬する人の作品を見て初めて、自分もやろうって思ったとことかさ」

     猪又、コリをほぐすように首をまわす。

猪又 「でもさあ、大変だったよ」

大山 「大変……ですか」

猪又 「うん。いろいろあったし」

大山 「いろいろ……ですか」

猪又 「そんときはね、谷が助けてくれた」

大山 「……谷さんが」

猪又 「うん、めっぽう頼りにしてた。
    いつもあんな調子だけどな。けっこうすごいよ、洞察力とか」

大山 「ふうん」

     猪又、アクビをする。

猪又 「映画ってさ」

大山 「はい」

猪又 「ひとりで作ってるわけじゃないじゃん」

大山 「……はい」

     大山と猪又、しばらくそれぞれの思いにふける。猪又、アクビをする。
     黒木、テーブルに置いた本を1冊手に取り、また置く。

猪又 「だからさ、要するにいま、ココロの中で、何がメジャーか、じゃないかな」

大山 「はい?」

猪又 「何がいちばん大きな位置を占めてるか」

大山 「……はい」

猪又 「それって、ごまかせないもんだろ」

大山 「はい」

猪又 「例えばさ、いまの俺、知ってるっけ」

大山 「……(ピンと来ない)」

     猪又、軽くジェスチャーで。

猪又 「いま、これ(妻が妊娠中)で、これ(就職した)だろ?」

大山 「あっ」

猪又 「少なくとも、現在のいちばんは、映画じゃないなって感じだろ?」

大山 「……はい」

猪又 「でもさ、状況って変わるもんだし……」

     黒木が、いきなり立ちあがる。
     そして無言で、足早に下手へ去っていく。
     それを呆然と見送る大山と猪又。しばらく言葉が出ない。

大山 「……本当は」

猪又 「……」

大山 「本当は、やりたい。……すごくやりたい」

猪又 「……」

大山 「すごく映画作りたい。映画作りたい。作りたい作りたい作りたい」

     さめざめと泣く大山。

     やがて、下手から黒木が戻ってくる。手にコーヒー缶を1個持っている。
     テーブルの前まで来ると、缶をさりげなく猪又の前に置く。

猪又 「……サンキュ」

     黒木が、ポケットから缶をもうひとつ取り出し、大山の前に置く。
     大山、きょとんとして、コーヒー缶と黒木を交互に見る。

     やがて、泣きっ面のままニヤリとする大山。

大山 「(缶を指さし)オブジェクト」

     黒木、思わずクスリと笑う。
     反対側のポケットから自分の分の缶を出し、上手の席に座る。
     黒木の頭を、後ろからうれしそうにカバンでこづく猪又。
     大山、缶を開け、ニコニコおいしそうに飲む。

猪又 「お前もだよ。鳴いたカラスがなんとかだよ(大山をバカバカとカバンでぶつ)」

大山 「あーこぼした。こぼしましたよ(笑う)」

     下手より谷が登場。やたら後ろを気にしている。

谷  「なーにやってんだよ。早く来いよ。ほら」

     谷、いったん下手に戻る。
     谷に腕を引かれて、おでこに冷えピタを貼った水村が登場。
     水村は、前にも増して憔悴しているようす。
     
大山 「よっちゃん」

谷  「そこの植え込みんとこで、泣き声がすんだよ。ひんひん、ひんひん。
    真っ暗なのにいったい何がいるのかと思ったら、こいつだよ」

水村 「……大山くん」

     水村、いきなり大山に向かって土下座。

水村 「ごめんなさい。お金……どうしても見つからない。
    ごめんなさい。ごめんなさい。ぼく、働いて返すから。
    一生かかっても働いて、返すから。本当に、ごめんなさい!」

大山 「……よっちゃん」

     大山、水村の前に座る。

大山 「べつに、一生もかかんなくていいよ、10万円だもん。
    ……ていうか、もういいよ。いいよ。いいってばいいよ」

     大山、水村を抱き起こす。

大山 「こっちこそ……ごめん」

水村 「……大山くん」

大山 「……よっちゃん」

水村 「大山くん!」

大山 「よっちゃん!」

     互いにひしと抱きあい、おいおいと号泣する大山と水村。
     言葉もなく、ただ見つめるしかない残りの3人。
     しばらくして、猪又が谷に言葉をかける。

猪又 「……メール、サンキュ」

谷  「よかったじゃん」

     大山と水村、ハムスターの埋葬先について、
     ボソボソと相談をはじめているようす。「薬学部の畑に」とか言っている。

谷  「かわいい後輩たちのイザコザ、解決ついて」

     猪又と谷を、さりげなくうかがう黒木。

猪又 「話さなきゃって思ってたんだけど」

谷  「話なんてないよ(帰ろうとする)」

大山 「(気付いて)谷さん!」

     大山が、谷の前に立ちふさがる。

大山 「猪又さんと、きちんと話して下さい」

谷  「……」

大山 「猪又さん言いました。前にいろいろあったとき、谷さんが助けてくれたって。
    猪又さん、谷さんをめっぽう頼りにしてたんですよ」

谷  「チケットの数、違うもんなあ」

大山 「……(息を飲む)」

谷  「(脇をすり抜けながら)わかってんだよ、そんだけだってね」

猪又 「(同時に)谷!」
大山 「(同時に)谷さん!」

     猪又、立ちあがる。大山がふたたび谷の前に立ちふさがる。

大山 「そんだけのわけないですよ。だって……だって、
    同じ目標持ってたわけじゃないすか。
    映画作るって。だからずっと一緒にきたんでしょう?」

谷  「……(目をそらす)。

大山 「あ、ひょっとして、妹さんのことで」

谷  「(大山を見る)妹は関係ねえ!」

     谷、苦しげに目をつぶる。

谷  「最初からだ」

大山 「最初……」

谷  「わかんないんだよ、目標なんて言われたって」

大山 「……」

谷  「わかってんだよ。いつでも俺は便利に使われてるだけだって。
    けどそうでもしなくちゃ、何のために俺はいるのって……」

猪又 「谷!」

     谷、猪又を見る。

猪又 「なんでそんなふうに考えんだ。
    お前、俺にないものいっぱい持ってるじゃないか。
    ずいぶんフォローしてくれてたじゃないか。
    それでこっちはすごく助かってて……」

谷  「ほら」

     口をはさみたいのにできない大山。
     冷静な黒木。
     水村はずっと固まった状態。

谷   「いつでも自分が中心にいて、まわりがみんな自分のためにあると思ってる」

猪又 「……」

谷  「いつでも自分が中心だと思ってる」

猪又 「……」

谷  「何でも思ったようになってる人間の、傲慢さだ」

     猪又、ついと前に出る。

猪又 「思ったように、なってるだって?」

     猪又、谷とにらみあう。

猪又 「お前、そんな風に見えるのか。あ? いまの俺がそんな風に見えるのか。
    ああ、たいした眼力だよ。俺が傲慢だって?
    そういうお前は何なんだよ(谷の襟首をつかむ)何なんだよ。
    えらそうに言うなよ。何も作ることできないくせして!」

     次の瞬間、2人のあいだで激しい取っ組みあいがはじまる。

猪又 「……作りたいんだよ。畜生ッ!」

     おろおろする大山。
     冷静な黒木。
     水村はめそめそ泣き始める。

大山 「やめてっ、ふたりともやめてっ」

黒木 「(大山に)大山よせ」

     なおかつ仲裁に入ろうとする大山、とばっちりのパンチを豪快にくらう。
     気を失い、大の字になって倒れる。

水村 「大山くん!(駆けよる)大山くん大山くん!」

     猪又と谷、荒い息をしながら、毒気を抜かれたように、その場に座りこむ。

     大山、意識を取りもどす。

水村 「大山くん」

大山 「あ、よっちゃん」

     大山、起きあがろうとするが起きあがれない。

黒木 「だからよせって言ったんだ。
    ケンカの仲裁ほど、リスクの大きいものはないんだぞ」

谷  「……黒木さあ」

     黒木、谷を見る。

谷  「お前も、もっと身体使えよ」

     憮然とする黒木。
     思わず吹き出す大山。
     つられて水村が笑う。猪又も笑う。

猪又 「じつは俺、さっきからすっげえ眠いんだってば」

     谷と黒木が笑いだす。
     しばらく、みんなでひいひい笑いつづける。
     暗転。

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major 第3場(前半)

Tm02

【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。

【第3場 (前半)】

     夜。無人の学生サロン。
     観葉植物に「むやみに倒さないで下さい」と、札が掛けられている。

     下手より、スーツにカバン姿の猪又博史が登場。
     中央の席に座る。
     猪又はかなり疲れた表情。ソファにおっくうそうに横になったあと、
     しばらくして、軽くイビキをかきはじめる。

     下手より、黒木が登場。猪又に気づく。

黒木 「……猪又さん?」

猪又 「ん……ああ(起きあがる)。寝てた」

黒木 「こんばんは」

     黒木、猪又の服装をまじまじと見る。

黒木 「その格好」

猪又 「あ、これ? 新人研修」

黒木 「研修?」

猪又 「1週間みっちりだぜ。ヘルウィーク(アクビ)。
    まだ3日めなのに、もーヘトヘト」

黒木 「猪又さん、就職するんですか」

猪又 「うん、するよ……っていうか、したよ」

     猪又にうながされ、黒木も座る。

黒木 「(同時に)あの」
猪又 「(同時に)あのさ」

黒木 「あ、どうぞ」

猪又 「そっち先で」

黒木 「……はい。あの、昨日、奥さんが来て」

猪又 「ああ」

黒木 「どうも、猪又さんも一緒に映画撮ってるって、思ってるみたいでした」

猪又 「うん。映画撮るって言って出てるから」

黒木 「なんでまた」

猪又 「(頭をかく)ほら、リストラされた親父とか、
    家族に言えないで、一日じゅう図書館にいたりするだろ」

黒木 「はい」

猪又 「それの反対」

黒木 「……はあ」

猪又 「フリーターやめてマトモになりましたって、
    照れくさくてさ、言えないんだよ(黒木をボカボカとカバンでぶつ)」

     黒木、笑う。

黒木 「猪又さんは、映画の仕事に就くって思ってました」

猪又 「コンペで入賞したからって(アクビ)、
    そう簡単にはプロになれねえって。専門で勉強したわけでもないしな」

黒木 「……(うなずく)」

猪又 「それより、お前のほうだよ」

黒木 「はい」

猪又 「谷からメールもらったけど。なに、ケンカしたの」

黒木 「はあ」

     しばらく沈黙がつづく。猪又、アクビをする。黒木が目をしばたかせる。

黒木 「痛いとこ、つかれました」

猪又 「……」

黒木 「自分が書けばいいじゃないかって、言われて」

猪又 「……(ほほえむ)」

黒木 「人のを見て、どこがいいか悪いかはわかるんです。でも……」

     黒木、自分の手をじっと見る。
     猪又、黒木にわからないようアクビをかみころす。

黒木 「大山が……あ、新しい部員です。大山が、
    脚本書いたってあれ持ってきたときには、けっこうショックで。
    見たら(少し笑う)中身はひどかったけど」

猪又 「……(笑う)」

黒木 「そうそう。ひどいんですよ、あいつ。何もわかっちゃいないんです。
    最初、フィルムで撮るって言ってたんですよ」

猪又 「ほう」

黒木 「30分作品だとして、めちゃめちゃ効率よくあげても、
    6倍はフィルムを回します。30かける6で、最低180分は回すでしょう?
    そんなフィルム代に現像代、どうすんだって聞いたら、
    1年かけてためたバイトの給料? 全部つぎこむとか言いだすし」

猪又 「そりゃまた」

黒木 「ムチャだからやめろって、必死で説得して。
    そしたら今度は、ビデオでもプロ用を使いたいとか言いだして」

猪又 「……(笑う)」

黒木 「それはまあ、つてをたどって、
    何とか安くで借りれるようにはなったんですけど」

猪又 「へえ」

黒木 「本当に、わかっちゃいないんです。3日で撮るって言うんですよ」

猪又 「3日」

黒木 「ざっと計算して、1シーンを1分とする。1分撮るのに2時間。
    2時間かけるの30分。だから最低でも、60時間はみとかなきゃいけないのに、
    3日間って72時間ですよ。移動とか、あと食事とか入浴とか睡眠とか、
    そんなのにも時間かかるって、全然考えてないんですよ!」

     猪又、大笑いする。

猪又 「バカなんだな」

黒木 「大バカですよ」

     猪又、何とか笑いがおさまる。

黒木 「1週間……まだキツいかな。2週間かけたら、
    スケジュール的にはOKですけど。レンタル料が、またかかりますからね」

猪又 「(まだ少し笑っている)いくら安くでつってもね」

黒木 「もう、頭いたいの何のって。おまけに、あの脚本でしょ。
    金、ドブに捨てるようなもんです。やめたほうがマシです」

猪又 「そこまで言う」

     黒木、しばらく考えにふける。

黒木 「やっぱ、ここのいちばんよかった時期、知ってるじゃないですか、俺」

猪又 「うん」

黒木 「なんとかしなきゃって、はり切りすぎました。
    ……他人の脚本(ひとのほん)なのに」

猪又 「……」

黒木 「すみません。なんか一人でしゃべっちゃって。
    (立ちあがり)ちょっと部室行ってきます。資料とか置いたままなんで」

     黒木、鼻をすすりながら上手に消える。

     猪又、ちょっと前から、下手のほうがどうやら気になっていたらしい。
     チラチラと見たあと、下手に向かって手まねきをする。
     下手より、大山が登場。
     ガチガチに緊張しているようす。手と足が一緒に出ている。

大山 「あの(つばを飲む)、猪又さ……猪又博史さん、ですよね」

猪又 「猪又です。……大山くん?」

大山 「は……は、はい」

猪又 「はじめまして」

大山 「はじめまして(感激ひとしお)。
    あの、高校のとき大学祭で、はじめて猪又さんの作った映画見ました。
    あれを見て俺、ああ、自分でも作れるかなって思ったんです」

猪又 「うん。あの程度なら誰でもね、作れるよね」

大山 「(あせる)いや、そそ、そういう意味じゃなくて、
    ハハ……ハリウッドとか、映画、遠い夢みたいなことじゃなくて、
    自分の身近でこんなふうにやれる人が、い、いるんだって、勇気づけられて」

     ふらふらする大山。猪又が自分の隣に座るよううながす。大山、座る。

大山 「あの、くり返し見ました。
    『気圏は光る』『燕とエアポート』『パピエブラン』、受賞作品ぜんぶ。
    あと、部室に残ってた8ミリのショートフィルムとか。えと『砂森』でしょ、
    『アーティチョーク』でしょ、『月のかかと』『F』それからえと……えと。
    なんか、見てると、一作一作、どんどん上手くなってくよなあって」

猪又 「最初のなんか、下手くそだもんなあ」

大山 「(泣きそう)あーいえー、そうじゃなくてーー!」

     土下座する大山。

大山 「すいません、すいません、すいません」

猪又 「おいおい冗談だよ。やめろよ」

大山 「(土下座で後ずさる)いえ、いえ。とにかく、とにかく……」

     黒木が、上手より登場。映画関係らしい本をたくさん抱えている。
     「シナリオの書き方」なる本も見える。
     大山がいるのに気付いて、複雑な表情。

     猪又が黒木に、座るよう無言でうながす。黒木、躊躇するが、
     やがて観念したようすで上手側の席に、中央に背を向けて座る。

     大山、顔をあげ黒木がいるのに気付くが、どうしようもない。
     猪又が、自分の隣に座るようにとうながす。大山、座る。

猪又 「(大山に)で? 結局やめるのか」

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major 第2場(後半)

Tm02

【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。

【第2場 (後半)】

谷  「(そっぽを向き)悪かったな。見苦しいとこ見せちまって」

     さりげなく携帯の電源を切る谷。中央の席に座る。
     黒木が上手の席に座ったまま、谷に声をかける。

黒木 「妹さんだったんですか」

谷  「うん」

黒木 「猪又さんと……ケンカしてんですか」

谷  「まあね」

大山 「えー、なんでまた……」

     黒木、大山の言葉を止める。

黒木 「谷さん。妹さんが売店で
    シュークリーム買ってきてくれたんです。食べません?」

     黒木がシュークリームを谷に放って渡す。
     大山、黒木もそれぞれ食べはじめる。

谷  「(食べながら)そりゃそうと、脚本、できたの?」

黒木 「まだなんですよ」

大山 「……(ものすごい勢いで食べる)」

     大山、次のシュークリームに手を出す。黒木が、大山の手をはたく。

黒木 「なに2個も3個も食ってんだよ」

大山 「(頬ばって)ほーひほひ、へいほーはははいほ」

黒木 「え?」

大山 「(飲み込んで)脳みそに栄養やらないと」

黒木 「脳みそ以外に行ってるだろ全部。……さて、続きやるぞ」

     黒木、台本を広げなおし、ペンを持つ。大山は気が進まないようす。

黒木 「いいかい。小道具は、
    状況の転換、それにおいての登場人物の心理描写、あるいは象徴。
    それらを引き出すオブジェクトとして、有機的にあるべきなんだよ」

大山 「……うん」

黒木 「オブジェクト。わかる? オブジェクト」

大山 「……うん」

黒木 「状況の転換、それにおいての登場人物の心理描写、あるいは象徴」

大山 「うん」

黒木 「状況の転換、それにおいての登場人物の心理描写、あるいは象徴」

大山 「うんうんうん。オブジェクトね、うんうん、オブジェクト」

     大山、身体をゆする。

大山 「……よっちゃん、来ないのかなあ」

黒木 「なに。水村に用でもあんの」

大山 「別にないけど、シュークリームあるし。なんか、来たらいいなあって」

谷  「よっちゃんって、昨日の変なやつ?
    (モノマネで)ボクのハムスターがァ……って、言ってたやつ?」

     大山と黒木、思わず笑う。

黒木 「そっくり」

谷  「ハムスターはァ、ネズミじゃないよォ。
    そうだけど、違うよォ……って、どっちだよ!」

     大山と黒木、笑う。

谷  「でも、来て欲しいんだったらさ、電話すりゃいいじゃん」

黒木 「ケータイ持ってないんです。あいつ」

谷  「へえ」

大山 「部屋にもないんですよ。だから電話は、
    大家さんに取り次いでもらわなきゃなんないの」

谷  「めんどくせえー」

大山 「で、あいつんち、いまどきお風呂もトイレも共同で……」

黒木 「(さえぎって)おい大山、続けるぞ」

大山 「……うん」

     大山、ペンを鼻の下にはさむが、すぐ落とす。
     床に落ちたペンを拾おうとして、さらにモタモタする。

黒木 「大山(イラつく)」

     大山、下を向いたまま。

黒木 「そんなに、やりたくないのかよ」

大山 「……」

     黒木、立ちあがる。

黒木 「それじゃいつまでたっても、映画なんてできないよ」

大山 「……じゃないか」

黒木 「ん?」

大山 「(顔をあげ)黒木くんが書けばいいじゃないか」

黒木 「はあ?」

大山 「そんなに文句ばっかり言うんだったら、自分が書けばいいじゃないか。
    自分じゃいっこも映画撮ったことないくせに、偉そうに言うなよ」

     黒木、絶句。

大山 「これ書くのに、どんだけ俺が苦労したって思ってんだ。
    そんな人のあげ足ばっかとって、批評ばっかして。
    ……自分で書いてみて、脚本書くのがどんなに大変か、味わってみろよ! 」

黒木 「……わかったよ」

大山 「……(鼻をすする)」

黒木 「俺、降りるから」

     黒木、きびすを巡らし、足早に下手へ去る。

谷  「……あーあ(苦笑)」

     大山、必死で涙をこらえている。

谷  「それを言っちゃあ、おしまいよォ」

大山 「……」

谷  「どうすんの」

大山 「……やめます」

谷  「はん」

大山 「俺には、最初からムリだったんです」

     大山、台本とペンを無造作にまとめ、上手に消える。
     上手ソデに近寄り、それを見とどける谷。

     下手から、憔悴した顔で水村が登場。手に小さなケーキの箱を持っている。
     中央の席につき、箱をテーブルに置く水村。膝を抱え込んで座る。

谷  「(気づいて)あれ」

水村 「……」

谷  「なに、よっちゃんも、売店のシュークリーム買ってきたんだ」

     谷、箱を開け、中を見て固まる。

水村 「……ぼくのうにたん、死んじゃいました」

     谷、水村の顔を見る。

水村 「ゆうべから、具合悪そうで。病院に連れていこうと思ったんだけど、
    動かすのかわいそうで。砂糖水とかやったんだけど、ぜんぜん飲まなくて」

谷  「……うん(箱のふたを戻す)」

水村 「ハムスターって、野生の本能が残ってるから、
    弱ってることギリギリになるまで見せないんです」

谷  「……」

水村 「ぼくが、気づかなかったんだ」

     大山、上手から、リュックを持って出てくる。

大山 「(気づいて)よっちゃん」

水村 「……大山くん」

大山 「あのさ、映画の話、もうやめにしたから」

     谷が「よせ」とサインを送るが、大山は気づかない。

大山 「預けたお金、返してくれる」

水村 「お金……?」

     水村、あわてて立ちあがり、ポケットを探る。

水村 「どうしたっけ」

大山 「どうしたっけって……(リュックを床に投げつける)なんなんだよ、もう!」

谷  「大山、おい大山!」

     大山、谷を見る。

谷  「あとにしろ」

     大山、谷を無視する。

谷  「ネズミが死んだんだよ」

大山 「……それがどうしたんだ」

     谷、絶句する。

大山 「ハムスターって、たかだか2千円じゃん。すぐに買えるじゃん。
    こっちは10万円、10万円だぜ。バイト代1ヶ月分なんだぜ。
    いったいどうしてくれんだよ」

     水村、顔をあげる。

水村 「うにたんじゃないッ」

大山 「……(ハッとする)」

水村 「他のハムスターは、うにたんじゃないッ」

大山 「……」

水村 「大山くんがそんなこと言うなんて思わなかった。
    谷さんや黒木くんなら言いかねないって思ってたけど」

谷  「(つぶやく)俺?」

水村 「(叫ぶ)大山くんが言うなんて思わなかったッ!」

     水村、信じられない勢いでソファをとび越え、
     さらに、観葉植物をがばっと派手になぎ倒す。

水村 「大山くんの、大バカーーーーッ!」

     テーブルに戻りハムスターの箱を手にしたかと思うと、
     ものすごい速さで下手にかけ去る。
     呆然とする、大山と谷。

谷  「……大山」

大山 「……(谷を見る)」

谷  「お前、サイテー」

     谷、下手に去る。
     携帯の電源を入れ「ゴメンゴメン。ちょっと電源切ってたからさ」
     などと言いながら出ていく。

     うなだれ、立ちつくす大山。
     暗転。

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major 第2場(前半)

Tm02

【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。

【第2場 (前半)】

     夕方の学生サロン。
     上手より、大山と黒木が熱心に話をしながら登場。
     大山は台本を持ち、メモをしている。

黒木 「よりによってコブシ型はないだろう、と思うわけだよ」

大山 「うん」

黒木 「だってヒロインは、いいとこの奥様って設定なんだぜ。
    道具使うにしても、そのシチュイエションに合うやつ
    いくらでもあるだろう? 蒔絵の箱とか、螺鈿とか、漆塗りとか」

大山 「……うん」

     上手側の席に座り、会話を続ける2人。

黒木 「そっから、アンティークの鼈甲の張り形なんて出してごらんよ。
    どうだ、最高。すばらしい絵になるじゃないか!」

大山 「……うん」

黒木 「それなのに、あのコブシ型(コブシを突きだす)。
    一気におじゃんだ。醜悪だ。あれをエロスととらえているのかと思ったら、
    俺、悲しくなっちゃった。はっきりいってあれはAVより下品な映画だ」

大山 「黒木くんもAV見るんだ」

黒木 「(無視して)だからさ、小道具1個にも気をつかえって話だよ。
    物語にはさ、ムードってものがあんだよ。
    それにそぐわない小道具とか、いかにも話の都合つけるために
    出しましたって感じのとか、それじゃダメなんだよ」

大山 「……うん」

     大山、必死でメモをする。

大山 「……黒木くん、(おそるおそる)ちょっと聞いていい?」

黒木 「なに」

大山 「マキエノハコとかなんとかって、何?」

黒木 「蒔絵ってのは……蒔絵ってのは、漆に金や銀をふきつける
    伝統的な日本の工芸技法。螺鈿は貝殻を貼りつける技法だよ」

大山 「あーあー。重箱とかそういうのでありそうな、アレ」

黒木 「そうだよ。アレだよ」

大山 「あっでも、鼈甲なら知ってるよ。亀の頭で作るんだよねえ」

黒木 「(つぶやく)甲羅だろっ」

大山 「(気づかず)長崎の資料館で見たよ、
    修学旅行で行ってさ。おばあちゃんに根付け買って」

黒木 「なあ、じつは鼈甲って、遊女が使う張り形として発達したって、知ってる?」

大山 「……ううん」

     大山、ペンをテーブルに置く。

大山 「黒木くん」

黒木 「なに?」

大山 「(おそるおそる)ハリガタって、何?」

     下手より、マタニティ服姿の猪又美耶子が登場。
     手にケーキの箱を持っている。

     美耶子、場に慣れないようすで、まわりを見まわしながら
     上手の方に歩いてくるが、大山と黒木は気づかない。

黒木 「張り形っていうのは……張り形っていうのは、要するに
    ティルドだよ。ペニスをかたどったセックスの道具のことだよ」

     大山、あ然とする。

黒木 「お前さっきから、意味わからずにウンウン言ってたの?」

大山 「黒木くん、セって、ペって
    もちっとこうやらかく、オブラート被せて言ってよ。
    いちおう公共の場なんだから。あーびっくりした、あーびっくりした」

黒木 「でも、セックスはセックスで、ペニスはペニスだろ」

     2人の脇を美耶子が通りすぎる。2人固まる。
     美耶子はそのまま上手に去り、2人は顔を見合わせる。

大山 「き……聞かれたかな」

黒木 「誰だろう」

     美耶子が、上手をふり返りながら戻ってくる。

美耶子 「あのう」

黒木 「はい」

美耶子 「そっちの(上手を指す)部室って、部外者でも行けるんですか?」

黒木 「ああ、いちおう部外者は立ち入り禁止になってますけど、
    誰も気にしてませんよ。ただ、行きにくいムードはありますよね」

     美耶子、恥ずかしそうに笑ってうなずく。

黒木 「どこにご用なんですか?」

美耶子 「あ、あのう。映画……研究部」

大山 「うち?」

美耶子 「え、あの。わたし、猪又……なんですけど」

     大山と黒木、思わず立ちあがる。

大山 「えっ、あのその、猪又ってあの猪又さんで。
    それ(思わずお腹を指さし、あせる)いやその」

美耶子 「(はにかみ)猪又博史の妻です」

大山・黒木 「ええーッ!」

     2人、飛びあがる。あわてて美耶子を中央側の席に座らせる。

黒木 「びっくりしました。猪又さん、そんなこと一言も言ってなくて」

美耶子 「まだ、籍を入れただけですし。
    いろいろ落ちついてからご挨拶にまわろうと、そう言ってるので」

大山 「ええー、ええー。(遠くに向かって)猪又さーん!」

美耶子 「大学病院に行って、せっかくだからちょっと寄ってみようかなって。
    医学部を突っきってここまで来たんですけど、思ったより遠かったですね」

黒木 「あそこから歩いてきたんですか?
    ちょっとムチャですよ。何ヶ月なんですか?」

美耶子 「9ヶ月」

大山 「うわあ(バタぐるう)。あと1ヶ月、うわあ」

美耶子 「あの、博史くんはいまどこに?」

黒木 「来てないですよ。ここにいるっていう話だったんですか?」

美耶子 「ええ」

黒木 「っていうか、昨日も用ができたって、来なかったし」

美耶子 「……そうなんですか」

黒木 「でも、来てくれても、脚本さえまだできてない状態ですから」

美耶子 「じゃあ、まだ撮影とか、始めてないんですね」

黒木 「はい、まだまだです」

美耶子 「なあんだ(笑う)」

     美耶子、立ちあがる。

美耶子 「じゃあこれ、皆さんで召しあがって下さい」

     美耶子、大山にケーキの箱を渡す。

美耶子 「大学病院の売店にあるシュークリームです。
    ここの、おいしいって評判なんですよね」

大山 「えっ、でも」

美耶子 「(ニッコリ)差し入れと思って、買ってきたんですから」

大山 「ありがとうございます(おじぎ)」

黒木 「そこ、出てすぐ右に行くと、バス通りに出ますから。
    あの、なるべく歩かないで下さい」

美耶子 「ええ」

     2人に見送られ、下手に去ろうとする美耶子。
     谷が電話をしながら、下手から入ってくる。

谷  「うんうん、じゃ次の日曜日ね。バイビー」

     電話を切り、顔をあげたとたん、美耶子と目が合う。

谷  「美耶子……」

     気まずい空気。大山と黒木、思わず後ずさる。

谷  「お前、何こんなとこウロウロしてんだよ」

美耶子 「……博史くんがいるかと思って」

谷  「(ため息)そんな身体で来たって、ジャマくさいだけだろ。さっさと帰れ」

     目も合わさずにすれちがう2人。美耶子がふり向く。

美耶子 「お兄ちゃん!」

     谷、立ち止まる。

美耶子 「いいかげん、博史くんと話をしてよ」

谷  「メールはしてるよ」

美耶子 「メールは話のうちに入らない!
    何が気に入らないのか知らないけど
    いつまでそうやって拗ねてんのよ。いい年して」

谷  「拗ねてねえよ」

美耶子 「拗ねてるじゃん」

谷  「拗ねてねえって!」

美耶子 「それが拗ねてるっていうのよ」

     谷、美耶子を無視する。美耶子、腹立たしげに去る。
     上手の席で小さくなっていた大山と黒木が、ホッと肩の力を抜く。

谷  「(そっぽを向き)悪かったな。見苦しいとこ見せちまって」

     さりげなく携帯の電源を切る谷。中央の席に座る。

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major 第1場

「major」は、オリジナルBL小説
よっちゃんと大山くんシリーズの第二弾です。
時系列では、前作「見上げた空は」のあとになっていますが
書き上げたのはそれより前で、彼らのシリーズの記念すべき第一作です。

舞台劇の脚本、「戯曲」のかたちをとっています。
じつをいうとこの時点では、ごくフツーの青春物語。
おもて向きはいちおう、健全路線まっしぐら(笑)です。

若干、設定が「見上げた空は」とは異なっていて
大山くんと石橋さんは面識がない、ということになっています。

よっちゃんと石橋さんは……ムフフ、ご想像におまかせ(笑)。

Tm02

major

【登場人物】
・大山賢太……末広大学2年生。19歳。映研部員。初の監督に挑戦中。
・黒木カオル……末広大学2年生。19歳。映研部員。屁理屈が多い。
・水村好男……末広大学2年。20歳。映研部員。通称よっちゃん。
・猪又博史……末広大学映研OB。24歳。卒業してから2年。
・猪又美耶子……猪又博史の妻。22歳。
・谷 雪耶……猪又博史の友人。24歳。末広大学4年生。

【第1場】

     春、夕方の学生サロン。
     上手が部室通りに、下手は各学部を結ぶ大きな通りに面している。

     上手寄りにソファとテーブルのセットが2つ。
     上手側はL字型、中央側はI字型に設置してある。
     中央のソファの横に、背の高い観葉植物。

     上手より、台本を読みつつ黒木カオルが登場。上手側の席に座る。

     しばらくして、大山賢太が上手より登場。黒木を気にしつつ、
     そわそわと舞台を歩き回ったあと、黒木の斜め前に座る。

大山 「……黒木くん」

黒木 「うん」

大山 「どう?」

黒木 「うーん。(顔を上げ)ちょっと、説明が多すぎるんじゃないか?」

大山 「……うん」

黒木 「なんか、話のラストがこうだろ?
    それに持っていくために、ムリやり……なんかみんな、
    そのためのセリフを喋らされてるような、そんな感じがする」

大山 「……うんうん」

黒木 「例えばさ、ここの『去年、旅行先の沖縄で病気になったとき、親切に
    してくれた島のおばあが言ってたよ』なんて、日常じゃ絶対使わないよな」

大山 「……うーん」

黒木 「それに、例えちょっと変わった人がいたとしても、『変な人』なんて
    よほどのことがない限り、その場ではそれ言わないだろ」

大山 「……う、うーん」

     下手より水村好男が登場。手に小さいレジ袋を下げている。
     大山が彼に気づく。

大山 「よっちゃん、こっち!」

水村 「あっ」

     水村、ニコニコしながら2人に近づく。
     途中で、無意識に中央側のテーブルにレジ袋を置く。

水村 「大山くんあのね。こないだ話をしていた、
    記録映画を撮ってる、ぼくのおじさんとこの会社に、プロ用の
    撮影機材なんかを一式借りるっていう話、おじさんに通したよ」

大山 「やった!」

    黒木、イヤそうな顔。

黒木 「あのさあ(苦笑)そこまでていねいに言わなくても、ちゃんとわかってるよ」

水村 「うん。でもひょっとして、忘れてるかも……って思ったから」

黒木 「忘れてないよ」

水村 「でね、おじさんとこ、フィルムのほうは、もう扱ってないんだって。
    仕事も全部、ビデオでやってるんだって」

黒木 「(大山に)ほら、やっぱりそうだろ。
    フィルムはやめたほうがいいって。扱いが難しいんだって」

大山 「……うーん」

黒木 「ビデオだったらさ、編集は簡単だし、学校のパソコンも使えるだろ」

大山 「……うん(不満そう)」

     大山、ポケットを探る。

大山 「そしたらさ、よっちゃん。忘れないうちに金渡しとく」

水村 「えっ、でもいくらかかるか、まだ聞いてない」

大山 「俺、持ってると使いこみそうで怖いんだ」
    よっちゃんならそのへん、しっかりしてそうだし」

黒木 「(つぶやく)しっかり?」

大山 「10万円入ってる。足りなかったらまた言って」

水村 「あ、うん」

     水村、大山から封筒を受け取り、ズボンのポケットに入れる。

水村 「あれっ(探る)。ぼくの、ハムスターのエサは?」

黒木 「(あきれつつ)あっちのテーブル」

水村 「あっ」

     水村、中央の席のレジ袋を手にとる。

水村 「ありがとう黒木くん」

大山 「よっちゃん、帰るん?」

水村 「うん。……まだなにかあるの?」

大山 「あのね、あとちょっとしたら猪又さんも来るからさ。ちょっと待っててよ」

水村 「猪又さん。(パッと明るく)待ってる待ってる!」

     水村、中央の席に、膝を抱え込んで座る。

黒木 「(大山に)水村って、猪又さんには会ってるんだっけ」

大山 「えっと。(水村に)よっちゃん、猪又さんに会ったことあったっけ」

水村 「ううんないよ。でも大山くんが、ものすごく会いたい人だから、ぼくも!」

     水村、レジ袋からハムスターのエサを、つぎつぎ取り出す。
     それをていねいにテーブルに並べ、じっくりと眺める。

大山 「ああ、なんか考えるとドキドキする。
    ホント、猪又さんに会いたくて、この大学選んだみたいなもんだし。
    (黒木に)肝心の映研がこんなにショボいのは、予想外だったけど」

黒木 「悪かったなショボくて。主要メンバーは卒業しちゃったんだよ。
    ……あ(イヤな顔)一人いるか」

大山 「谷さん?」

黒木 「また、来るんじゃないだろうなあ」

大山 「なんで? イヤなの?」

黒木 「だって、厳密にいうと、あの人部外者なんだよ。
    でも、デカイ面してんだよな。はじめて俺が参加したとき……」

大山 「黒木くん、どれから参加したんだっけ」

黒木 「燕とエアポート」

大山 「あ、2本めからか」

黒木 「それと『パピエブラン』」

大山 「あっ俺、それ大好き(ニッコリ)」

黒木 「でさ、俺がはじめて参加したとき。
    あ、そんとき俺も部外者だったんだけど、高校生だから一応。
    いろいろ雑用あるだろ。荷物運ぶとか、買い出し行くとか」

大山 「うん」

黒木 「そういうの、絶対しないの。こっちが必死で働いてんのに」

大山 「へえ」

黒木 「でさ、いまでも印象に残ってることがあんだけど」

大山 「なになに」

黒木 「ロケに泊まりがけで行ってさ、朝メシ用意するだろ。
    で、簡単にと思って、ゆで玉子なんかつくるだろ」

大山 「いっぺんに」

黒木 「うん。それで、ゆで玉子ってさ、ふつう丸のまま出すよね」

大山 「(うなずく)ゴロッって」

黒木 「でも、谷さんの分だけ、むいてきれいに輪切りしてあるの」

大山 「なんで?」

黒木 「猪又さんがむくんだよ。で、玉子切り器ってあるだろ。
    こう、ガシッて押さえるやつ」

大山 「あーあー、ビルマの竪琴みたいなあれ」

黒木 「ビルマかどうかは知らないけど、それ。
    それで切って、サラダとかの上に盛りつけるの」

大山 「なんで?」

黒木 「わっかんないんだよ。みんなに聞いたら、前からそうなんだって。
    玉子切り器、猪又さんがわざわざ持ってくるんだって」

大山 「へえ?」

黒木 「だって監督だぜ。しかも、どのコンペに出しても必ず入賞するって伝説の
    持ち主なんだぜ? それが、玉子切るんだよ。ひとりぶんだけ」

大山 「うーん」

黒木 「しかもね。その玉子切ってる時の猪又さんの顔がさ
    なんつーか、至福っつーか。ものすごい幸せそうでさ。
    こんなに楽しいことはないって顔しててさ」

大山 「なんで?」

黒木 「な? なんでって思うだろ」

大山 「思う思う」

黒木 「変なんだよ」

大山 「変だよ」

黒木 「変だろう」

大山 「変だわ」

     大山と黒木、それぞれに、いろいろと考えをめぐらせる。

大山 「……谷さんて、猪又さんの親友なんだよね」

黒木 「うん。中学の同級生て言ってた。
    いまは……えっと、2年遅れてんだよな。
    まあ、あれだけ遊んでれば、留年するのもムリないよ」

大山 「でもさ。谷さんて、あれ。アレ、すごくない?」

黒木 「あれ?」

Tm02

     下手より、谷雪耶が登場。

谷  「よー、ひさしぶりッ!」

     大山、黒木、あわてて立ちあがる。水村、遅れて立つ。

大山 「ごぶさたしてます(おじぎ)。あの、今日はお呼びだてして……」

谷  「俺は呼ばれてねえよ。おもしろいから来ただけ。
    (見まわして)猪又、来てねえんだ」

黒木 「えっ、猪又さんと一緒じゃないんですか?」

谷  「違うよ」

     谷、水村の横に座る。

谷  「なに映画作るんだって? 監督、誰?」

大山 「ぼくです!」

谷  「へー。……えっと」

大山 「大山です」

谷  「大山くんかあ。何、どんな話?」

大山 「いや、その……」

黒木 「脚本、まだ全然できてないんですよ」

谷  「(笑う)ええ、大丈夫なん?」

     谷の携帯電話が鳴る。

谷  「はいはーい、谷でーす。……ああ、メグちゃん、元気ー?」

     谷、電話をしながら下手へ移動。

谷  「あ、うんうん、パーティ券ね。……うん、かかわってるよ。……うんうん、
    10枚ね。オッケーちゃんと取っとく。じゃバイビー(切る)」

     戻ろうとした途端、また電話が鳴る。

大山 「(黒木に)ほら、すごくない?」

黒木 「……(うなずく)」

谷  「はいはーい、谷でーす。……やっほーミキちゃん、元気ー?
    ……え、サブローズのライブ。うん、やってるよ。
    うんうん6枚ね、オッケー。バイビー」

     戻ろうとした途端、またまた電話が鳴る。
     「はいはーい」と出ながら、下手のほうに行く谷。
     大山と黒木、台本の直しを再開する。

黒木 「でさ、ここの『もと中学サッカー部主将』ってセリフ、
    自分で言ってみた? これさ、言えないよ」

大山 「言えない?」

黒木 「うん。(水村に)ちょっと水村、来て」

水村 「なーにー?」

     水村、2人のところに行く。

黒木 「あのさ、『もと中学サッカー部主将』って、言ってみて」 

水村 「もとちゅうがくシャッカーぶしゅそう」

黒木 「ほら」

水村 「もとちゅうぎゃくしゃっかーびゅすそう。……あれえ?」

黒木 「見ろ、カミカミだよ。言えないセリフは使っちゃダメだよ」

     谷が電話を切り、戻ってきて
     テーブル上のハムスターのエサを、興味深げに手に取る。

大山 「うん。でもここ、どうやって説明すんの。もとちゅっかーぶ……だって」

黒木 「それは大山くん、君が考えることだよ。監督、脚本は君なんだからさ」

     谷、袋を開けて食べてみる。

谷  「うえっマズ! なんだこれ、お菓子じゃねえの?」

水村 「あっ、ぼくのうにたんのエサ……」

谷  「うにたん? うにたんって何だよ」

水村 「ぼくのハムスターの名前です」

谷  「ええっ、ハムスターってネズミじゃん。
    うわあ、ネズミのエサ食っちまった(大げさにえずくマネ)」

水村 「ハムスターは、ネズミじゃないですよ」

谷  「ネズミだろ、ネズミの一種!」

水村 「そうだけど、違いますてば」

谷  「そうだけど違いますって、違うのかそうなのか、どっちだよ」

     大山と黒木、あわてて2人のあいだに仲裁に入る。

黒木 「すみません谷さん。こいつ、ハムスターのことになると見境がなくって」

大山 「よっちゃん、ケンカなんかしたら、君のうにたんが悲しむよ!」

水村 「(ハッとして)ごめん。(谷に)ごめんなさい」

     谷、ポカンとする。

谷  「あ、いやその。なんかこっちも悪かったし」

     大山、エサを持ち、水村も連れて、上手側の席へ移る。

谷  「そういや、さっきメール入っててさ。猪又から」

黒木 「猪又さんから?」

谷  「うん。今日は用が入ったから、来られないってさ」

黒木 「猪又さん、来ないんですか」

水村 「(ガッカリして)猪又さんが来ないんだったら、ぼく帰る」

大山 「うん」

     水村、立ちあがり、下手へ歩く。

大山 「よっちゃん!」

水村 「ん?(ふり向く)」

大山 「バイバーイ」

水村 「バイバーイ」

     水村、去る。

谷  「俺も帰ろっかなー」

大山 「俺も……(席を立つ)」

黒木 「まだ直しがあるよ」

大山 「黒木くん、もう明日しよ、明日」

黒木 「大山ぁ」

     上手へ去る大山。それを追うように黒木も上手へ消える。
     谷も、電話をかけながら下手へ去る。
     暗転。

Tc0101
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